第34話 私のヒーロー【人質Side】
「さて、残りは2〜3人だな。おまえだ、こっちに来い」
「うう……」
続けて少し年配の女性が選ばれた。先ほど女性をかばおうとした男性が思いっきり殴られているのを見ていたため、抵抗はしなかった。
「あとひとりだな。……ったく、ダンジョンの店だけあって客は野郎ばかりで女やガキは少ねえか。さすがに女性店員は止めておいた方がいいよな、リーダー?」
「ああ、そうだな。抵抗されたり、なにか変なマジックアイテムを隠し持っていたら困る。客の中から選んでおけ」
「了解だ。だけどもう女はいねえか……おっと、こんな所にもうひとりいやがった」
「……っ!?」
金髪の男が奥にいた私と弟に気付いてしまった。
「若えな、まだ中学生か高校生くらいじゃねえか。最近流行っているアイドル配信者とかでも目指してんのかよ? おっ、しかもガキも一緒にいるじゃねえか。ちょうどいい、おまえら姉弟で決まりだ、こっちに来い!」
「お、お姉ちゃん……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
泣き出す弟を必死になだめる。この男はたとえ幼い弟でも平気で殴ってくるような最低の男たちだ。弟が大声で泣きださないように頭と背中を撫で続けた。
「おい、さっさとこっちに来い」
「……お願いします、人質には私がなりますから、どうか弟だけは許してください!」
「駄目だ、お前ら2人だ。さっさとしろ!」
「うええええん!」
金髪の男の怒号が響き、それに耐えられなくたった弟が泣き出してしまった。
「ったく、うるせえガキだな! おら、黙れ!」
「やめて、乱暴しないで! お願いします、私が何でも言うことを聞きますから、どうか弟だけは許してください!」
「……ほう、何でもか?」
弟をかばって前に出た私を前にして、男が振り上げた拳を止めた。
「おい、くだらねえことをしている時間はねえぞ!」
「いいじゃねえかリーダー。車を持ってくるまでもうちっとは時間があるだろ。それまでの間だけでも楽しませてくれよ?」
「……ちっ、遅れたらそのまま置いていくからな。それにしてもそんなガキのどこがいいんだかよ」
「へへっ、これくらいの女を無理やりヤるからいいんじゃねえか。おい、俺を満足させられれば、そっちのガキを許してやってもいいぜ。言っている意味は分かるだろ?」
「………………分かったわ」
ニヤニヤと下種な表情で私の身体を見てくる金髪の男。
私は男の人とそういう経験なんてしたことはないけれど、知識としては知っている。
「お姉ちゃん! 行っちゃ嫌だ!」
「お姉ちゃんは大丈夫だから。すみません、弟をお願いします」
「……すまない、本当にすまない!」
「お姉ちゃん!」
私から離れようとしない弟を隣にいた男性へ預けた。男性は私に謝りながら、弟に後ろのことが見えないようしっかりと抱きしめてくれた。
「ありがとうございます」
謝る必要なんてない。この人は何ひとつ悪くない。
悪いのはあの男たちだ。人を傷付けて、人の弱みに付け込んでくる最低最悪のあの男たちだ。
「おら、さっさとこっちへ来いよ」
下劣な笑みを浮かべている男の方へ進む。リーダーやその仲間たちは先ほどと同じように、ニヤニヤしながら私を見ているだけだった。
きっと、この金髪の男は約束なんて守ってくれない。ここから逃げ出す時はきっと弟も一緒に人質として連れ出すに違いない。
それでも、私にできることはほんの少しでもいいから、時間を稼ぐことだけだ。
弟が助かるのなら、別に私の身体が汚されることくらい構わない!
「へへっ、楽しませてくれよな」
「……っ!」
金髪の男の手が私に迫る。
怖い……だけど、私は耐えてみせる! 絶対にあの人は助けに来てくれるから!
グシャッ
「ぎゃああああああああ!」
何かが潰れたような音が聞こえ、目の前にいた金髪の男が突然股間を押さえて、悶絶しながら崩れ落ちた。
「お、おい、どうした!?」
「なんだ、どうしたんだよ!」
リーダーの男やその仲間たちがとても慌てている。
私にも何が起こったのかまったく分からない。目の前にいた金髪の男が、なぜか突然股間を押さえて倒れていっただけだ。
「……ゆっくりと後ろに下がって、他の人と一緒に離れていてくれ」
「っ!?」
目の前の何もない空間から、突然男の人の小さな声が聞こえた。
実際にその声を聞くのはこれが初めてだ。だけど、それは何度も何度も配信で聞いたことがあるぶっきらぼうなあの声だ!
「おっ、おい。何がどうなっていやがるんだ……?」
「わ、分からねえ。突然あいつがひとりで倒れて――ぎゃあああああ!」
「な、何がどうなっているんだよ!」
何が起こっているのか分からずに慌てている立てこもり犯のひとりが、また股間を押さえながら悶絶して崩れ落ちていった。
……やっぱり来てくれるって信じていたよ。
あなたは何度も私たちリスナーに助けられたって言っているけれど、それは私にとっても同じなんだ。
あなたが命をかけてがむしゃらに戦っていた姿には本当に勇気をもらえたんだよ。あなたがダンジョンで死んでしまわないか、毎日本当に心配だったなあ。
それこそ学校であったいじめなんてどうでもよくなるくらいにね。あなたに勇気をもらったおかげで、私はそんなくだらないいじめなんかに負けないで、今は元気に学校へ行けるようになったんだ。
ヒゲダルマ、やっぱりあなたは私のヒーローだよ。
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