第28話 新たな契約
「はっ!」
「えいっ!」
「グギャアアア!」
豚型のモンスターであるオークソルジャーが華奈と瑠奈の攻撃を受けて倒れた。オークと言えば、大型で力が強くて動きが遅いというイメージが強いが、それは低い階層に出てくるオークで、この階層で出てくるオークソルジャーはその上位種だ。
オークに比べて細身であるが、力はオーク並みにありつつ、その速度はオークよりも速い。動きも洗練されており、普通のオークよりはよっぽど面倒な相手だ。ちなみにさらに奥の階層ではオークソルジャーの上位種なんかも出てくる。
「それじゃあ、解体はあとにしてあっちの方にあったセーフゾーンへ移動するか」
「はい、ヒゲダルマさん」
「了解、ヒゲさん」
ここは大宮ダンジョンの38階層だ。俺が2人の配信に出てからもう2週間が経過している。
華奈と瑠奈とは週に1度、こうやって俺の配信に出演してもらいつつ、2人のダンジョン攻略を手伝っている。今日は37階層で38階層へ進むことができるゲートを発見することができ、無事に2人の最高到達階層を更新することができた。
ゲートを通って38階層へ移動し、この階層を少し探索したところで何度かモンスターとの戦闘を終え、ちょうど近くにあったセーフゾーンへと移動した。
「ふう~やっと解体が終わったよ……」
「瑠奈、ほっぺに血がべったりついているわよ」
「ありがとう、お姉!」
セーフゾーンへと移動し、先ほど倒した何体かのモンスターの解体をようやく終えたようだ。
"やっぱり可愛い女の子が映っている配信はええのう~ @月面騎士"
"うむ! 今ので寿命が1年は延びたな! @たんたんタヌキの金"
"このチャンネルのリスナーはおっさん率が高いよなw @ルートビア"
"それは否定しない。しかし、ヒゲダルマも少しは手伝ってやれよな。 @†通りすがりのキャンパー†"
俺の方はというと、セーフゾーンにテーブルや椅子を用意して、飯の準備をしている。テーブルの上に置いているデバイスから俺の配信を見ているリスナーさんからのコメントが届く。
「俺はアドバイスをするが、基本的に手は貸さないという契約だからな。モンスターと戦うのも、解体作業も2人に任せるぞ」
週に1〜2回、2人には俺の配信に出てもらい、その対価として2人が攻略をしている最中にアドバイスをしつつ、食事は俺がご馳走するという新しい契約を結んだ。
「はい、大丈夫です」
「うん、自分たちのことは自分たちでやるよ!」
それに俺も意地悪で戦闘に手を出さなかったり、解体を手伝わないわけではない。俺と一緒にいる時は何かあったら助けられるが、それ以外の日は2人で探索をしているわけだからな。俺が手を貸すことによって、それに慣れてしまっては困る。
「ご飯の方はもう少し時間が掛かるから、ちょっとだけ待っていてくれ」
「はい。本当においしそうな匂いですね」
「う、うん。本当に良い匂いだね……」
瑠奈の方はなぜかお腹を押さえている。そういえば、以前に瑠奈のお腹が盛大に鳴ったことがあったな。
"今日のメニューは何かな? 私も見ているだけでお腹が空いてきちゃった。 @WAKABA"
"どうせまたとんでもない食材なんだろうな……大丈夫、もう俺はちょっとしたことじゃ驚かないから! @ルートビア"
"完全にフラグになっているぞw おっと、ちょっと早いけれど俺は落ちるな。何せ今日オープンの六本木モールの入場抽選に当たったんだぜ! @たんたんタヌキの金"
「うわ~羨ましいな!」
「すごいですね! 確か相当低い抽選率だったはずですよ!」
"いやあ~俺もまさか本当に当たるとは思っていなかったよ! マジで楽しみだぜ。理想を言えば華奈ちゃんと瑠奈ちゃんと一緒にデートしたかったなあ! @たんたんタヌキの金"
"おいこら、おっさん。通報するぞ! @月面騎士"
"たぬ金さんは相変わらずだね~でも六本木モールのオープンに行けるなんて、本当に羨ましいなあ。 @WAKABA"
「……その六本木モールっていうのはそんなにすごいのか?」
「「………………」」
"まあ、当然こいつはこういう反応だよな…… @†通りすがりのキャンパー†"
"うん、短い付き合いだけれど、ヒゲダルマがこういうやつなのはもう知ってる。 @ルートビア"
……いや、ダンジョンの外の話なんて俺が知るわけないじゃん。
"六本木モールは今日新しくオープンする巨大な複合商業施設で、国内の人気ブランド店や飲食店がいくつも入っているんだ。もちろんダンジョンのマジックアイテムや武器や防具の有名店も入るんだぞ! 俺はダンジョンには入らないけれど、見ている分には十分楽しめるからな。おっとヒゲダルマなんかに説明している時間がもったいない、お先! @たんたんタヌキの金"
"おつ~ @月面騎士"
"乙! さりげなく、ヒゲダルマをディスっていくスタイルw @ルートビア"
なるほど、新しく大きな商業施設がオープンするということか。
確かに俺には関係のない話だ。ブランド店や飲食店なんかはともかく、ダンジョン関係のショップもこのダンジョンにこもり始めた頃には多少世話になったが、今は夜桜の店しか行っていない。
もはや、店で購入する武器や防具よりも自作した物の方が強いからな。それに夜桜の店でもダンジョン関係の商品は買わずに、米や調味料や日用品しか購入していないし。
「さあ、できたぞ。熱いうちに食べてくれ!」