第25話 ミノタウロスとの戦い
そういえば2人の戦闘を見るのは初めてだ。華奈を助けた時はシルバーウルフの群れから逃げていたし、瑠奈はベヒーモスにやられそうなところしか見ていない。それに属性付きの武器がどんな感じになるのか少し気になる。
「ウモオオオオ!」
しばらく歩いたところでミノタウロスが現れた。
ミノタウロスは人型の2足歩行で歩くモンスターだ。頭は角が生えた牛のような姿をしており、毛深い胴体も特徴的だ。体長は2メートル以上あり、2人よりも遥かに身体が大きく、その右手には棍棒が握られている。
「瑠奈、行くわよ!」
「うん、お姉!」
2人とも戦闘態勢にはいり、ミノタウロスと対峙する。さすがにミノタウロス1匹なら問題ないと思うが、俺も背中に背負った大剣を抜き、何かあればすぐ援護できるように準備をしておく。何が起こるか分からないのがダンジョンだからな。
「せいっ!」
「ウモオオ!」
華奈がミノタウロスの棍棒による攻撃を回避しつつも、ロングソードによる一撃を食らわせる。
いつの間にか華奈が持つロングソードは炎を纏っている。あれが魔石による属性効果の付与か。モンスターの中には火に弱いモンスターもいるから、そんな相手には大ダメージを与えられるだろうな。
「やあっ!」
「ウモオオ!」
そして傷口から燃え上がった炎を消そうと気を取られた隙に、瑠奈のナイフによる攻撃がミノタウロスへと入る。それほど大きな威力ではないが、一度の攻撃で3度もの斬撃を浴びせる。
風の属性付与は武器の切れ味を増す効果もあるので、瑠奈のそれほど刃渡りの長くないナイフでもあれだけの切れ味が出るのだろうな。属性付与された武器か……魔石の加工は難しそうだが、あの効果は捨てがたい。俺もいろいろと試してみてもいいかもしれないな。
「ウモオオオオ……」
そのまま数分間ミノタウロスと戦い続け、ミノタウロスの巨体が地面に沈んだ。結局華奈と瑠奈は一度もミノタウロスの攻撃を受けることなく戦闘を終了した。
どうやら2人ともスピードタイプらしく、手数とスピードを武器に戦闘を進めるタイプのようだな。
「いかがでしたか?」
「僕たちの戦闘はどうだった?」
ミノタウロスが動かなくなったことを確認し、今の戦闘の感想を2人から求められる。
あまり人に教えるのが得意ではないが、とりあえず今の戦闘の感想を正直に伝えるとしよう。
「ああ、悪くなかったと思うぞ。2人とも自分の特徴を最大限に活かした立ち回りをしているように見えた。敵の攻撃もちゃんと見えていたみたいだし、属性付きの武器と今の戦闘スタイルは相性がよさそうだな」
「はい、ありがとうございます!」
「えへへ~!」
2人とも俺なんかに褒められてとても嬉しそうにしている。
「理想を言えば、もう少し急所を的確に狙って戦闘を行えるといいぞ。手数で攻めるにしても、目を狙ったり臓器のある部分を的確に狙えば、より有利に戦闘を進められる。別に戦闘を急げというわけじゃないが、時間をかければかける分他のモンスターに遭遇する可能性もあるし、想定外の出来事が起こる可能性も上がってくるからな」
「うん、分かったよ!」
「なるほど、ありがとうございます!」
「まあ、これは俺がソロだからということもある。それに戦闘に関しては完全に独学だから、あまり参考にしなくてもいいぞ」
「ううん、とっても参考になったよ!」
「いえ、とんでもないです。参考にさせていただきますね!」
「そうか。それじゃあ次は俺の番だな。別のモンスターを探すとしよう」
ミノタウロスは食べるのには向かないので、価値のある硬い角だけを剥ぎ取ってからその場を後にする。モンスターの死骸は時間がたつとダンジョンに吸収されるので、不要な死骸はそのまま放置して問題ない。
「……ちょうどミノタウロスが3体いるな」
俺たちの視線の先にはさきほど2人が倒したのと同じミノタウロスが3体いる。ミノタウロスは複数体で行動することもあるので、こちらも複数人でパーティを組んで戦うのが基本だ。
「1体ずつ僕たちが引き付けようか?」
「いや、向こうはこちらに気付いていないようだし、1人で十分だ。当たり前だが、こちらから奇襲したほうが優勢に戦いを進められる。逆をいうと、ダンジョン内にいる時は常にモンスターからの奇襲には気を付けておくんだぞ。よし、それじゃあ行ってくる。何かあったら援護を頼む」
「分かりました!」
「うん、分かったよ!」
2人と離れて、身を隠しながら3体のミノタウロスの方へ進んでいく。
……よし、この辺りからなら、一気に距離を詰められる。あとは3体のミノタウロスの視線がうまくお互いから外れたところで……よし、今だ!
ザンッ
1体目のミノタウロスの首が宙を舞った。そのまま方向転換して1体目と同様に2体目の首を落とす。
「ウモォ!?」
そして最後のミノタウロスがようやくこちらの存在に気が付くが、戦闘体勢を取る前に3体目のミノタウロスの首を落とした。
「ふう~」
ミノタウロスは首を落とせば死ぬことは分かっているが、それでも何が起こるのか分からないのがダンジョンなので、常に残心を怠ってはならない。
「……よし、動かないな。2人とも、もう大丈夫だぞ」
「「………………」」