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第20話 夜桜屋


夜桜(よざくら)、邪魔するぞ」


「あれ、ヒゲダルマじゃん! いらっしゃいやせ~」


 ここはダンジョンの外にある夜桜屋という小さな商店だ。まあダンジョンの外といっても、大宮ダンジョンの入り口のゲートがある建物内にある店だから、外と言っていいのかは怪しいところだがな。


 突如世界中に現れたダンジョンへと繋がる謎のゲート、この他のダンジョンもこの大宮ダンジョンと同じで、現れたゲートを中心に日本ダンジョン協会が巨大なビルを建て、その中にダンジョン関連の研究機関や探索者向けの道具を販売する店が多く入っている。


 最近だとダンジョン配信者が増えてきたため、ダンジョン配信用のドローンなんかの専門店も増えてきたようだ。


 このダンジョンのゲートも研究がずっと進められているが、何も分かっていないのが現状である。


「日用品の補充はまだ先じゃなかったのかい? まったく、米とか調味料とかは自分で買いなよ。これでもうちは小さいながらもダンジョン配信者向けのお店なんだからね!」


 目の前にいるメガネをかけた黒髪ロングの女性の名前は夜桜こころ。この大宮ダンジョンビルの15階に位置する夜桜屋という小さな商店の店主だ。


 俺も普段はダンジョンに引きこもっているが、数か月に1度だけはこの店を訪れている。というのも、ダンジョン内で肉や魚や野菜は手に入れることができるのだが、醤油や味噌などの調味料、そしてなにより米を手に入れることができないのだ。


 そのため、とある縁で知り合ったこの夜桜に頼んで、定期的に調味料や米、他にも調理道具なんかを大量に購入してマジックポーチに保存しているわけだ。


「その分手数料はかなり多く払っているだろ。ほら、この前の頼みごとの分の報酬だ」


 どさどさと店のカウンターの中にダンジョンで狩って解体してきたコカトリスの素材などを載せる。もちろん卵や肉は俺が食べるから、それ以外の骨や皮などの食べられない部位だ。


「しかも支払いは全部モンスターの素材と物々交換だなんて、本当にいつの時代なんだか。まったくヒゲダルマは面倒なお客だよね……」


「その分かなり多めに支払っているつもりなんだけれどな。まあ、どうしても嫌なら他の店に持っていくが……」


「うそうそうそ! うちみたいな小さな店だとヒゲダルマへの売上だけでもかなり大きいんだよ! ぶっちゃけヒゲダルマがいなかったらうちのお店が潰れちゃうから!」


「……まあ、俺も冗談で言っただけだ」


 さすがに商店としてそれはどうなんだとも思うがな。確かにいつこの店に来ても、毎回数人くらいしかお客さんが来ていない。今日もカウンターの外ではお客さんが一人だけだ。


 なんだかんだ文句を言いつつも、俺の頼んだものを仕入れてくれるこの店の存在はとてもありがたい。そして何より、夜桜は俺が持ってくるモンスターの素材の出所を秘密にしてくれている。


 コカトリスなどのモンスターの素材は外だとだいぶ高値で取引されているらしく、あまり高級な素材を大手の買取所で何度も引き取ってもらうと目を付けられてしまいそうだからな。


「それならいいよ。……うん、相変わらず十分過ぎるほどの報酬だね。またこっちがもらいすぎになるけれどいいのかい?」


「ああ。分かっていると思うが、口止め料も含んでいるからな。それに前回の件はいろいろと助かった。最近はあんなデバイスなんかも出ているんだな、だいぶ驚いたよ」


「記録媒体から再生するデバイスのことかな。最近だとだいぶ小型化されて、値段もかなり安くなっているからね」


 この前の会見の時に会場で映像を流したデバイスや記憶媒体は夜桜に頼んで入手してもらったものだ。俺がダンジョンに潜ったころから、だいぶ技術は発達しているらしい。


「それにしても驚いたよ。例の会見のライブ配信は見たけれど、まさかヒゲダルマが全国デビューするとはね! 今巷じゃあの謎のイケメン探索者は誰だって、だいぶ騒ぎになっているよ。それで今日はマスクをして帽子をかぶっているんだね」


 声のトーンを落としながら、耳元でこの前の会見の話をする夜桜。こいつも外見は綺麗な女性なんだから、男である俺に対していろいろと気を付けてほしいものなんだがな。


「こっちもいろいろとあったんだよ。俺にあうスーツを用意してくれて、髪を整えてくれたのは本当に助かったぞ」


「……まったく、あの時はいろいろと無茶を言ってくれたよね。私は美容師でもスタイリストでもないってのにさ」


 そう、あの会見の時に作戦を立ててくれたのは俺のチャンネルのリスナーさんたちだが、実際にデバイスを準備してくれたり、俺の髪を切ってスーツを用意してくれたのは夜桜だ。


 幸いその時にお客さんは一人もいなかったから、すぐさま店を臨時休業にしてもらって、髪とヒゲを切って整えてもらい、俺の背丈にあうスーツなどを他の店で購入して見繕ってもらった。


 その分の報酬は今回モンスターの素材で多めに支払ってある。


「あの格好だと髪を切る店にも入れてくれないだろってリスナーに言われてちゃってさ」


「当たり前だよ! ぶっちゃけうちの店にヒゲダルマが来ている時も、何度かお客さんから通報した方がいいか聞かれたことがあったからね!」


「マジか……」


 そこまでだったのはちょっとショックだ。まったく、人は見た目じゃないというのに……


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