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第179話 理由


 それは配信でも話したことはなく、今まで誰にも話していないことだ。


 これまでコメントで軽く聞かれたことはあったが、それには答えずにいた。


 やっぱりみんなずっと気になっていたのだろう。当時はその件については触れられたくなかったが、こうして直接顔を合わせて、これまでずっと応援をしてくれていたこの二人になら話すことができる。


「……たぶんみんなずっと気になっていたよな。あまり気持ちのいい話じゃないから詳細は省くが、俺は働いた会社に裏切られたんだ。会社の不祥事をすべて俺に押し付けられ、俺がこれまでに貢献してきた功績をすべて奪われてな」


「「………………」」


「もちろん俺もそんなことはしていないと必死に弁明した。だけどさっきの話にもつながるんだが、俺はデジタルな部分を他の人に任せていたのがまずかった。証言や証拠なんかはすべて揃えられていて俺の訴えは誰にも届かず、多額の賠償責任を負って俺が持っていた家などの財産をすべて失ったんだ。どんな条件を突き付けられたのかは知らないが、一緒に働いていた仕事仲間と大切だった人までも会社側についたのはさすがに絶望したな」


 会社や信じていた人に裏切られ、俺が持っていた地位や財産のすべてを失い、帰る家すらなくなった俺は自暴自棄になってそのままダンジョンへと引きこもった。


 その会社はダンジョンに関わる仕事をしていたためダンジョン探索者の資格を取っていたことと、すでに他界していた両親に迷惑をかけることがなかったのは不幸中の幸いと言うべきだったか。


 すべてに裏切られて絶望していた俺だからこそ、虹野に濡れ衣を着せられていた華奈と瑠奈が俺の姿に重なってあの二人を見捨てることはできなかったわけだ。


「まあ当時は相当ショックだったが今ではもうほとんど吹っ切れたし、この生活はとても楽しいから二人は気にする必要はないぞ。いろいろとあったけれど、そのおかげでたくさんの新しい出会いもあったし、今の俺がいるわけだからな。ただあまり気分のいい話ではないから、他のリスナーさんには秘密にしておいてくれ」


 さすがに裏切られたことに感謝しているとは死んでも言わないが、その出来事があったからこそ今の俺の生活があり、目の前にいるタヌ金さんとWAKABAさん、リスナーさんや華奈と瑠奈、他にもいろんな人と出会うことができた。


 当時今の頼りになるリスナーさんたちが俺のそばにいてくれたら、みんなに相談をして何かが変わっていたのかもしれないが、その出来事があったからこそリスナーさんに出会えたというのはなんとも皮肉な話だ。


 みんなとの出会いと、これまでダンジョンで運よく生き残ってこられたことだけは神様に感謝している。


「……そっかヒゲダルマさんはいろいろと大変だったんだね。そんなことがあったのに今はこうやって楽しそうに暮らすことができていて、お姉さんはとても嬉しいよ」


「私もヒゲダルマと出会えて本当に嬉しいよ! 辛いことを思い出させちゃって本当にごめん……。話してくれてありがとう!」


「今の生活はこれまでよりもずっと楽しいから、本当に気にする必要はないからな。ただせっかくのおいしいご飯が台無しになるから、この話はこれまでにしておこう」


「そうね、こんなにおいしい料理を食べられる機会なんてもう二度とないかもしれないし、今は料理を楽しみましょう」


「……うん!」


 唯一俺を裏切った直属の上司であったあの男だけは今でもたまに夢へ出てくるんだよな。今はどこで何をしているのか知らないが、むしろ知りたくもない。


 あいつらのことを思い出して、せっかくのすばらしい料理が台無しになってしまってはもったいない。今の俺にはみんながいてくれるし、もう当時のことはほとんど吹っ切れている。


 過去のことよりも今を楽しもうじゃないか。




「ヒゲダルマさん、ご馳走さま。本当においしかったわ。それにお土産までありがとうね」


「こちらこそ今回は本当に助かったし、これまでにもたくさんアドバイスをありがとう」


 二人にはXYZさんに渡した時のように俺が作った様々な料理の入ったマジックポーチをお土産に渡してある。それと内緒だが何か緊急事態が起きた時のためにハイポーションなんかも入れておいた。


 マジックポーチ自体もそこそこ高値で売れるだろうし、何かあった場合には遠慮なく売ってお金に替えてほしいと思う。


「WAKABAさん、本当にありがとうございました。ヒゲダルマ、六本木モールのことも、今回のことも本当にありがとうね」


「お互い様だ。タヌ金さんもいつも配信を見てアドバイスをくれてありがとうな」


 WAKABAさんとタヌ金さんを駅まで送る。まだ日も暮れていないから、タヌ金さんもここまで送れば大丈夫だろう。


「これからも応援しているね。……い、家は大宮からそんなに離れてないから、た、たまにでいいからダンジョンの外でも会ってくれると嬉しいな」


「ああ、もちろん構わないぞ。またうまい飯でも食べにいこうか」


「う、うん!」


 モンスターの食材を調理するお店へ訪れるのは楽しかったりもした。またモンスターの食材を扱う店に行ってもいいかもしれない。


 まあ、タヌ金さんは学生だから昼間来られるところにしておいた方が良さそうだ。


「うんうん、お姉さんは遠くからみんなのことを応援しているからね!」


「うん? そうだな、これからも配信を頑張るよ」


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