第174話 グリーンドラッグ
「それで、WAKABAさん。話というのはなんなんだ?」
タヌ金さんと別れて、今度は別のカラオケ店へと入る。WAKABAさんはここでのカラオケチェーン店の会員カードも持っていたから、結構な常連なのかもしれない。
「話が直球すぎるのはヒゲダルマさんらしいわね。せっかく女性と二人きりなのに」
「WAKABAさんとの付き合いも長いからな。そういったことが冗談だということはわかる」
「つまらないわね……って言いたいところだけれど、こっちもちょっと真面目な話だから、早速本題に入るわね。さすがにここからは大きな話になってくるから、タヌ金ちゃんには内緒にしたかったのよ」
そう言うとWAKABAさんは真面目な顔をしてこちらを向く。
WAKABAさんからの連絡によると、すずさんの母親が依存している例の薬について別の話があるそうだが……
「さっきタヌ金ちゃんが言っていた例の薬なんだけれど、おそらく他のところでも結構な数の被害がでているのよ。実は今医療関係の方でもちょっと問題になっているの」
「そうなのか。新しいドラッグとして流行っているのか?」
いつの時代でも合法ドラッグや違法薬物、最近では危険ドラッグという呼ばれ方をして、様々な新しいドラッグが出てくるものだ。
「そうね、その症状と依存性の強さからたぶん間違いないと思うわ。ただ他のドラッグと違って、その原材料にはダンジョンから出たマジックアイテムが使用されているらしいの。そのことでヒゲダルマさんに話を聞きたかったのよ」
「………………」
マジックアイテムを悪用しているのか。というか、つい最近似たような効果を持つマジックアイテムを見たことがある。
「もしかすると、そのマジックアイテムは緑色の粉だったりしないか?」
「えっ……!? まさかヒゲダルマさん、持っているの!」
「ああ。今は持っていないが、ダンジョンの家に戻ればあるぞ。実は……」
例のDQN配信者に試した虹野が所持していたマジックポーチに入っていたグリーンパウダー。今のWAKABAさんの反応を見ると、ビンゴなようだ。ああいった副作用のあるマジックアイテムの種類はそれほど多くないからな。
DQN配信者で試した時は月面騎士さんとキャンパーさんしか見せていなかったので、WAKABAさんにその症状を詳しく伝えた。
「……そんなマジックアイテムがあったのね。私たちがグリーンドラッグと呼んでいるそのドラッグは緑色をしていたから、おそらく間違いないと思うわ。もちろん元になるマジックアイテムをかなり薄めているとは思うけれどね」
「やはりか」
WAKABAさんから聞いたグリーンドラッグと呼ばれる新しいドラッグはおそらく虹野が所持していたものと同じマジックアイテムが原料になっている可能性が高いみたいだ。
「タヌ金ちゃんに聞いてみて、その母親が所持していた薬の色が緑色だったらほぼ間違いないと思っていいでしょうね」
あのマジックアイテムは一時的な身体能力の強化と集中力の増加に加えて幸福感が得られる代償として、かなりの依存性と精神的に異常をきたすことがわかっている。その症状とWAKABAさんがこれまでに知ったそのドラッグの特徴がかなり一致している。
「ああ、あとでタヌ金さんに確認してみよう。もしもそれが一致しているとしたら、天使の涙で治療できることはすでに確認しているから、ある意味ではいい情報でもあるか」
「そうね、もしも同じものなら、おそらく少量の天使の涙で治療できると思うわ」
グリーンパウダーを使ったDQN配信者が天使の涙で正気に戻せたことはすでに確認している。その情報に限っていえば、とても助かる情報ではある。
「……しかしマジックアイテムを悪用している輩がいるのか。本当にろくでもないやつらだ」
以前にあった六本木モールの立てこもり事件でも店にあったマジックアイテムを犯罪に使用していた。ダンジョンから得られる魔石やマジックアイテムは日々の生活を豊かにしてくれるものだが、悪用するような悪人もいるのが実情だ。だからこそ、ダンジョン防衛隊なんかの組織が設立されたわけだしな。
「本当にね。しかも結構な数の被害者がいるから、おそらく個人ではなく組織的なグループで動いていることは間違いないと思うわ」
「犯罪者グループか……」
いくら薄めているとはいえ、さすがに一個のグリーンパウダーからそれだけの量のグリーンドラッグを作り出しているわけではないだろう。多くの協力者に加えて、そこそこの階層でボスモンスターを周回できるほどの実力者もいることになる。
狂戦士の腕輪やグリーンパウダーなど、効果が強力だがマイナス効果のあるマジックアイテムはどのダンジョンでもそこそこの階層からしか出てこない。その犯罪者グループに協力している腕のあるダンジョン探索者がいることは間違いないだろう。
「ねえ、ヒゲダルマさん。そのグリーンパウダーを少しもらうことはできる? もしも原材料になっているマジックアイテムがあれば、それを解析して治療方法が見つかるかもしれないわ」
「ああ、もちろんだ。ぜひ研究に使ってくれ」
俺はこんなマジックアイテムを使うつもりはないからな。
「ありがとうね、ヒゲダルマさん! ……でもどうやって医療関係の人に渡そうかしら」
「さすがにWAKABAさんから直接渡すわけにはいかないからな」
当然WAKABAさんがどうやってそのグリーンパウダーを手に入れたのかという話になるだろう。そこでWAKABAさんやタヌ金さんと俺が関わっていることは秘密にしておきたい。
「……こういうことに関して言えば、適任なやつがいたな」