第170話 チャット
ヒゲダルマ:
というわけで、みんなにも意見を聞きたいんだ。
ダンジョンにある自宅へ戻ったあとにタヌ金さんの相談事を限定配信のリスナーさんたちに聞いてみた。
もちろんタヌ金さんが女の子であることはぼかして、知人が困っているという話にしてある。
いつもの配信をしながらでもいいのだが、リアルタイムの配信だと俺が口を滑らせてしまう可能性もあるから、以前作ったチャットグループで文字を打ってみんなに意見を聞いている。
たんたんタヌキの金:
申し訳ないけれど、みんなの力を貸してください。
ケチャラー:
もちろんだ。それにしてもタヌ金の知り合いはとんでもない薬に手を出したものだなあ……
†通りすがりのキャンパー†:
今のご時世、不満やストレスなんかに悩まされることも多いからな。合法とか言われて軽い気持ちで手を出してしまって引き返せなくなることもあるのだろう。そもそも自分の意思ではない場合もある。怖い話だと、知り合いにこっそりと飲まされて自分でも知らない間に中毒にされることなんかもあるらしい。
ルートビア:
なにそれ、怖い……
今では合法ドラッグみたいなものの他に以前のグリーンパウダーみたいなダンジョン産のマジックアイテムやモンスターの素材を使った危険な薬物なんかも出てきているらしい。
一時的に身体能力を強化したり、集中力が増して勉強ができたりとそういった効果があるものが裏で売られているようだ。
グリーンパウダーや狂戦士の腕輪のような、何かを代償にする使用禁止マジックアイテムとかは宝箱から出ないでほしいものである。まあ、そのことについてダンジョンに文句を言っても仕方がないんだけれどな。困ったことにそういった代償を支払うマジックアイテムの効果が高いことも事実なのだ。
ヒゲダルマ:
とりあえず経緯は置いておいて、そういった症状の人に天使の涙を与えても問題ないか? ルーノアム病の場合はすでに天使の涙が特効薬として効果のあることがわかってたけれど、今回はそうじゃないからな。
華奈:
普通のポーションや毒消しポーションなどの回復効果のあるマジックアイテムを使用して病状が悪化したケースなどはないので、問題ないと思います。もちろんお医者さんの意見やご家族の意見は聞いた方が良いと思いますが。
なるほど、華奈の言う通りだ。月面騎士さんの時はすでに命の危険があったし、月面騎士さんの承諾があったから問題はなかったが、今回はすぐに命が危険ということではないし、少なくとも医者と家族の同意は必須だな。
月面騎士:
うちの母親の場合はしばらく検査をしたりで数日は入院して様子を見て、医師と看護師さんにはとてもお世話になったなあ。病院との連携は絶対に必要だと思う。ダンジョン産のマジックアイテムやモンスターの素材での治療法も研究している最新の病院だったから、お世話になった先生に連絡して聞いてみるよ。
たんたんタヌキの金:
ありがとう! 恩に着る!
月面騎士さんの病院では本当にお世話になったし、良くしてくれた。俺のことも他の人には言わないでくれているし、あの先生方に相談するのもありだな。
なんなら天使の涙を研究用に提供してもいいかもしれない。
XYZ:
しかし家族の人にはどう説明したものかな。そんな高価なマジックアイテムをポンと提供するってのも怪しい話だし、正直にヒゲダルマがタヌ金の知り合いと明かすのはお互いになかなかリスクが高い気もする。
華奈:
うん。今回のことと以前に六本木モールでタヌ金さんがヒゲさんと接触していることが知られたら、また夜桜さんの時みたいに家や職場に押し掛けられるかも……
夜桜:
うちはひとりでやっている小さなお店だったからまだ良かったけれど、会社や自宅に押し掛けられるとさすがに問題になりそうだね。
そっちの問題もある。しかもタヌ金さんはまだ高校生だし、タヌ金さんやすずさん、その家族に面倒ごとが行くのは絶対に避けたいところだ。
高校を退学させられたり、変な輩に付きまとわれたりする可能性もある。
†通りすがりのキャンパー†:
やはりヒゲダルマとの関わりは伏せた方がいいだろうな。タヌ金が知り合いからもらった治療薬とかサンプルと伝えて試すのが一番か。
ルートビア:
天使の涙であることもできれば伏せておいたほうがいいかも。実際に購入したらかなり高額で販売されているから、出所は絶対に聞かれて答えられなくなりそう。
う~ん、実際にはそれもなかなか難しいんだよなあ。
なにせリアルのタヌ金さんは高校生だ。友人になら説明できても、ご家族に説明するのは厳しいだろう。
月面騎士さんにだけタヌ金さんが高校生であることを話して、協力を求めるか? いや、月面騎士さんにこれ以上迷惑を掛けるのも避けたい。
WAKABA:
もしかしたらだけれど、力になれるかも。ヒゲダルマさん、今週末まで待てたりするかな?
どうしたものかと悩んでいると、思わぬところから手が上がった。




