第169話 相談
「なるほど、もちろん俺にできることなら何でも手を貸すぞ。タヌ金さんの恩人ということは俺にとっても恩人であることと同義だからな」
「ありがとう、ヒゲダルマ。ずっと配信を見て勇気をもらって、前は弟と一緒に助けてくれたのに何も返せなくてごめんね……」
「いや、すでにタヌ金さんたちリスナーのみんなにはたくさんもらっている。そもそもリスナーのみんながいなかったら、間違いなく俺は何十回も死んでいるんだからな」
月面騎士さんにも同じようなことを言われたが、どうしてみんなは対価なんて気にするのだろう?
みんなはそれほど大したことがないと思っているのかもしれないが、俺にとってはダンジョンの外で人に裏切られて何もなく孤独だったあの頃に配信でコメントをくれたことは本当に嬉しかった。
それこそあの配信チャンネルのリスナーさんたちは全員が俺の命の恩人だ。だから俺はみんなのためにできることなら何でもする。
「それで、その問題はお金で解決できそうな問題なのか?」
「……ううん。ヒゲダルマにお願いしたいのはお金じゃなくて、この前手に入れていた天使の涙なんだ」
「天使の涙……まさか、その子の家族もルーノアム病に!?」
以前に月面騎士さんの母親がかかってしまった病で、万能状態異常回復薬の天使の涙によって治療した。
確かあの病はかなり珍しい病気だったはずだが……
「ううん、病気じゃないよ。実はすずちゃんのお母さんが悪い人に騙されて、良くない薬に依存してしまったらしいの。その薬はとても依存性が強いみたいでお医者さんでも完全に治療するのが難しいんだって……」
「なるほど、それで天使の涙というわけか」
以前に虹野から回収したマジックポーチの中にヤバいマジックアイテムがあった。俺たちがグリーンパウダーと名付けたその緑色の粉は服用すると一時的に力を得られるが、その代わりに強い幻覚作用と依存性がある非常に危険な麻薬のようなものだった。
タヌ金さんたちには実際にそれを摂取したDQN配信者の様子は見せなかったが、天使の涙でそれを治療できたことは伝えている。
「以前に横浜ダンジョンへ潜った時に3つほど手に入れてある。もちろんその子の母親に使ってもらって大丈夫だ」
「本当!」
「ああ、タヌ金さんの恩人なら当然だ」
「……ヒゲダルマ、本当にありがとう!」
俺がそう言うと、タヌ金さんはとても安心した顔をしている。もしかすると俺が断る可能性も考えていたのかもな。ダンジョンの外では非常に貴重なマジックアイテムらしいが、俺にとっては関係ない。
「ただ、以前DQN配信者に天使の涙を使った時はうまくいったが、その子の母親の症状に効くのかまではわからない。さすがに身体に悪いことはないと思うけれど、まずは医者の意見も聞いてみたいところだな」
「うん、すずちゃんに話してみる」
「あとは医者やその子の両親にどうやって説明するかだ。さすがにタヌ金さんがどうしてそんな貴重なマジックアイテムをもっているかという話になるだろうし、俺が渡すとしたら俺とタヌ金さんに関わりのあることがバレてしまう」
「そうだね、ヒゲダルマに迷惑が掛かっちゃう……」
「いや、俺のことについてはどうでもいいんだが、問題はタヌ金さんやその子の方だ。俺と関わりがあるせいでタヌ金さんの身に何か起こることが心配だ」
「う、うん。ありがとうね、ヒゲダルマ」
なぜか少し顔を赤くして目線を逸らすタヌ金さん。
俺のことは自分でどうとでもなるが、以前の夜桜の時のようにタヌ金さんの身に何かあることだけが心配だ。特にタヌ金さんはまだ高校生らしいし、悪意のある者に晒されたりしたら大変だ。
……というか今更ながらタヌ金さんは高校生だったんだな。小柄だったから中学生くらいかと思っていた。
「詳細は話さないから、リスナーのみんなに相談してもいいかな? その薬についての詳細についても知りたいところだし、みんなの方が上手い理由も浮かびそうだ」
「うん、もちろんだよ。私もヒゲダルマに相談したあと、みんなにも相談してみようと思っていたんだ」
「それならよかった」
ダンジョンのこと以外についてはみんなのほうがなんでも詳しい。また力を借りるとしよう。
「ここまでで大丈夫か?」
そのあとは駅までタヌ金さんを見送りに来た。ちゃんと尾行をしている者がいないかも確認済みである。
「うん、今日は相談に乗ってくれて本当にありがとう!」
「ああ、いくらでも相談してくれ。むしろ頼ってくれたほうが嬉しいぞ」
俺としてはリスナーさんのみんなにはずっと恩を返したいと思っていたところだ。
「……ヒゲダルマらしいなあ。すずちゃんの話がなかったら、ヒゲダルマと会った時にもっといろいろと話したいことがあったんだけどね」
「ああ、この件が解決したらいくらでも話せるさ。俺もダンジョンのことや配信のことで話したいことはいろいろとあったからな」
タヌ金さんはこれまで俺の配信を見てくれていたことだし、昔話をするのも面白いかもしれない。
それにいろいろと食べてもらいたいモンスターの食材なんかもあるぞ。
「……やっぱりヒゲダルマらしいよ。楽しみにしておくね」
そのままタヌ金さんを見送った。
さて、ダンジョンに戻ったら、リスナーのみんなに相談してみるとしよう。