第167話 再会
「う~む……」
今俺は千葉県のとある喫茶店に入っている。もちろん尾行などにも気を付けタクシーを乗り換えて移動してきて、配信者のヒゲダルマとバレないように変装もしている。周囲を回って、人がいない喫茶店を見つけて隅の席に座った。
今日はこれからリスナーさんのタヌ金さんと待ち合わせをしている。なぜ千葉県かというと、タヌ金さんがこの辺りに住んでいるからである。最初はタヌ金さんが大宮ダンジョンのある埼玉県まで来ると言っていたのだが、彼女はまだ中学生か高校生くらいの年頃だったため、俺がこちらへ来ることにした。
……というか、いまだにあの六本木モールで会った可愛らしい女の子と普段コメントで会話をしているタヌ金さんと一致していないんだよなあ。別人があの時だけタヌ金さんのアカウントを乗っ取っていたというほうがまだ信憑性はある気がする。
そんなことを考えていると、俺の前にひとりの女の子が現れた。
「あ、あの! 今日は遠いところから来てくれてありがとうございます!」
「………………」
黒い髪をツインテールにした女の子は間違いなく俺が六本木モールで助けた女の子だった。今日は学校の制服を着ている。
やはりこの子がタヌ金さんで間違いないらしい。
「俺の方こそ、いつも配信のコメントで助けてくれて本当にありがとう」
「わ、私こそ、今日だけじゃなくて六本木モールでは私と弟を助けてくれて本当にありがとうございました!」
開口一番にお互いお礼を伝えあう。
配信やコメントでは何度もお礼を伝え合った仲だが、やはり直接会ってお礼を伝えたかった。
「さて、まずは座って注文を頼もう。もちろん俺が出すから、何でも好きな物を注文してくれ」
「い、いえ! 今日は私の方からお願い事があってここまで来てもらったのに悪いです!」
「そういうことは気にしないでいいからな。あと敬語もいらないから、普段通りに話してくれればいいぞ。ぶっちゃけダンジョンの外でお金なんてほとんど使わないんだから、こういう時に使わせてくれ」
「……ふふっ、ヒゲダルマらしいね。ありがとう、ご馳走になるよ」
そう言いながら微笑む可愛らしい女の子。やはりコメントでのタヌ金さんとはまったく一致しない……
俺はドライカレーとコーヒー。タヌ金さんはナポリタンとオレンジジュース、食後にパフェを頼んだ。まだ少し遠慮しているようだったから、パフェは俺が無理やり頼ませたようなものだけれどな。
このお店は昔ながらの喫茶店のようで、メニューもだいぶ昔ながらのものばかりだった。まだこんな喫茶店が残っていたのか。
「あの後は大丈夫だったか? 身の回りで何か騒ぎになったりしていないか?」
「うん、大丈夫。事件の直後はいろんな人に話を聞かれたり、インタビューを受けたりしたけれど、その後は普通の生活に戻ったよ」
「そうか、それは良かった」
あの事件の後はダンジョン協会やらダンジョン防衛隊やらマスコミなんかが集まってきたみたいだからな。とはいえ俺とリスナーであるタヌ金さんの関係を疑う者はいなかったようだ。そもそもタヌ金さんと会ったのはあれが初めてだったわけだしな。
「あと弟はヒゲダルマにすごく憧れていて、今はダンジョン配信を見るようになったよ。もちろん一般配信の方だけれどね」
「……見るだけならいいが、ダンジョンを探索したいとか言い出したら絶対に止めてくれ」
やはりあの年頃の男の子はダンジョン探索者や配信者に憧れてしまうものなんだよなあ……
だが、ダンジョンに潜るのは本当に命懸けなので、絶対におすすめできない。
「うん、もちろんだよ! ヒゲダルマがダンジョンで何度も死に掛けているのをずっと見てきたわけだからね」
「まあ、そりゃそうだよな」
「あの頃のヒゲダルマは本当に自分が傷付くのなんて少しも気にせずモンスターと戦っていたから、見ていてとっても心配したんだよ……」
「ああ、当時はみんなが止めてくれるのを振り切ってダンジョンを攻略していたからな。心配を掛けて本当にすまなかった。もうあんなことはしないから安心してくれ」
タヌ金さんは結構初期の段階から俺の配信を見ていてくれていたから、俺ががむしゃらにダンジョンを攻略していた頃のことを知っている。
あの時は俺も余裕がなかったから自分のことなど考えずにいたが、今では日々が楽しいし、俺を心配してくれる人が大勢いることもよくわかっている。
「うん。私だけじゃなくて、きっとみんなもそう思っていたと思う。それに今ののんびりとした配信もとっても楽しいよ」
「おっ、そう思ってくれているのは嬉しいな。ちょうど最近は武器に属性を付与する方法を教わっていろいろと試しているところだ。ああいうのもなかなか面白いぞ」
「ふふっ、ヒゲダルマらしいね。……ヒゲダルマはなんで私が男の人のフリをしてコメントを書き込んだのか聞かないんだね?」
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