第162話 鍛冶場
翌日、華奈と瑠奈が武器を整えてもらっている大宮付近にあるダンジョン用の武器と防具を販売している店へと移動する。
先日のDQNたちに跡をつけられた経験を活かしてちゃんと尾行対策をしつつ、タクシーで移動してきた。都会のビルの中にポツンとある昔ながらの瓦屋根の家でかなり大きい。裏の方からは黒い煙が上がっている。
「こんにちは~」
「あら、葵井さん。いらっしゃいませ」
瑠奈が挨拶をすると、受付にいた女性は華奈と瑠奈を知っているらしく返事が返ってきた。建物の外見は古いけれど、中へ入ると今時のフロアが広がっていてダンジョンを探索するための武器や防具などが並んでいた。
「鉄森さんへ予約をしているのですが、今いらっしゃいますか?」
「はい、承っております。こちらへどうぞ」
受付の女性の案内に従って進むと、奥に広いフロアがある。
「おおっ、これはなんともまた……」
そこには本当に現代の日本かと疑われるほど昔ながらの鍛冶場があった。もちろん現代らしく冷房もあって部屋の中は涼しく、大型の機械なんかもおいてあるけれど、そこには真っ赤に燃える炉や鉄に刀を打つための鎚なんかが並んでいた。
ダンジョンが世界中に現れたことによって、宙に映像を映し出す腕輪やドローンなどの技術が一気に進んだこのご時世だと、だいぶ近代的なお店が多い中、ここは本当に昔ながらの店らしい。
「当店は元々日本刀や包丁や鎌などの鍛冶を生業としていた店だったのですが、ダンジョンが現れてからは主にダンジョン探索者様や配信者様へ向けた武器や防具などを販売するようになりました」
「なるほど」
俺が不思議そうに思っていると、受付の人が説明をしてくれた。そしてそのまま受付へと戻っていく。
ダンジョンが現れてからはそういった職人さんの需要が一気に上がったからな。特に刀鍛冶の技術を持った職人は重宝され、子供のなりたい職業にもランクインするくらいには有名になっている。
「来たか」
「鉄森さん、お久しぶりです」
「またよろしくお願いします」
そこへやってきたのは60~70代の男だ。頭に白い手ぬぐいを巻いて、作務衣のような服を着ている。
「初めまして、私は――」
「おう、ヒゲダルマという名のダンジョン配信者だな。すでに知っているぞ」
「はい、ヒゲダルマという名前でダンジョン配信をおこなっています」
俺が自己紹介をしようとしたところで、鉄森さんのほうから握手を求めてきたので俺はその手を取る。手の皮は分厚く、豆もある職人さんらしい手のひらだった。
ダンジョンの外であるため、今日はちゃんと髭を剃ってきたのだが、どうやらちゃんと俺がヒゲダルマだと分かっているらしい。
「今日は属性付き武器の作り方を教えてほしいという話だったか」
「はい、どうぞよろしくお願いします」
俺は鉄森さんに向かって頭を下げる。
「……深い階層を探索している割には随分と礼儀正しいようだな」
「いえ、当然のことかと」
鉄森さんは俺よりも年上だし、これからものを教わるわけだし、礼儀正しくするのは当然である。
だけど鉄森さんがそう言うということは、有名だが無礼な探索者たちも多くいるみたいだな。那月さんたちみたいな礼儀正しい探索者の方が少ないということがよくわかる。
「気にせず砕けた口調で構わないからな。別に秘伝の技術というわけでもないから構わないぞ。だが教えるにはひとつだけ条件がある」
「「えっ!?」」
華奈と瑠奈が驚いた声を上げる。どうやら2人とも条件の話は今聞いた話のようだ。
そういった技術はとても貴重なので対価を払うつもりで現金を持ってきている。もちろんお金以外にも俺ができることなら引き受けるつもりである。
「ええ、内容次第ですが」
「なにそんな大層なことじゃない。あんたが自分で作ったというあの白い大剣を見せてくれ! いったいどんなモンスターの素材を使っているんだ? それと深い階層で得た貴重なモンスターの素材や魔石があればそれを見せてくれるとありがたい!」
「「「………………」」」
鉄森さんの目がとても輝いている。
どうやら鉄森さんはお金よりもモンスターの素材の方に興味があるようだ。
「ほう……こいつは見事な素材だ! この硬度は今まで俺が扱ってきたどんなモンスターの素材よりも硬いぞ!」
「かなり深い階層のレアモンスターと呼ばれる珍しいモンスターの牙を削りだして作った刀なんだ。現状の工具なんかではとても加工ができなかったから、リスナーさんからのアドバイスで同じ素材をなんとかもう一本用意して、その牙同士をこすり合わせてできた粉末を研磨剤として使用してみた」
「ふむ、同じ硬度を持つもので研磨する昔からある加工法だな。ダイヤモンドなんかも昔はその方法で加工されていたぞ。他にもガスを使用したレーザーや水を高圧で出して加工する方法もあるが、この素材だとそれも難しいかもしれないな」
マジックポーチから大剣である白牙一文字を取り出して見せると、鉄森さんのテンションが一気にマックスになった。やはりモンスターの素材や武器の加工方法にとても興味があるらしい。
俺もそういった話は大歓迎である。