第156話 解体師
「……よし、これで血抜きは完了だ」
"しかしよくまあ、あの巨体を吊るせたもんだよ…… @XYZ"
"それもそうだけれど、首のない巨大なマンモスが吊られているってホラーすぎる…… @ルートビア"
"ここに来られるダンジョン探索者や配信者はほとんどいないとはいえ、この光景を見たら驚くじゃすまないだろうなw @月面騎士"
横浜ダンジョンの目の前には首を斬ったタイタンエレファントの巨体が俺特製のハンガーに吊られている。
モンスターの中ではかなり巨体な方だが、もっと深い階層にはこれくらいの大きさのモンスターはそこそこ出てくるし、このモンスターの巨体でも問題ないくらいの強度で作られている。
ただ、ゾウ型のモンスターは俺も初めて遭遇したので、それがハンガーに吊られている光景は俺も初めて見るな。
「いつも通り食用になりそうな部位と素材になりそうな部位へ切り分けよう。素材になりそうな部位は明日那月さんたちに確認だな」
血抜きを終え、いよいよ解体作業に入る。
「……やっぱり少し筋肉質なだけあって肉質は固めだな。それに雪階層ということもあって、毛皮も分厚いぞ」
"ふむ、たまに焼けば柔らかくなるような肉質の素材もあるが、それが駄目なら肉を柔らかくするための工夫が必要だな。 @†通りすがりのキャンパー†"
"ヒゲダルマクッキングの始まりだな! @たんたんタヌキの金"
"さあて、今日はタイタンエレファントを調理していきますよ~まずはタイタンエレファントの肉をご用意ください……ってできるか! @ケチャラー"
他のモンスターの解体手順と同様にまずは全身の皮を剝いでいく。分厚い皮と肉の隙間に特別製の解体用ナイフをすべらせる。
ところどころに那月さんたちとの戦いの跡が残っているが、とりあえず何かに使えるかもしれないし、できる限り綺麗に解体していこう。
「次は内臓を取り出すか。それじゃあちょっとだけ映像をオフにするぞ」
分厚い皮を剥いだら、いよいよ本格的に肉を解体していく。ダンジョン配信ではグロい映像の配信は規約違反となるのでドローンのカメラをオフにする。まあ、規約違反云々を差し引いても、内臓を取り出すような映像は見ていてあまり気持ちのいいものじゃないからな。
俺としてはもう慣れたが、生物の内臓は少しグロテスクである。
腹部にナイフを刺して少しずつ切り開いていく。この時に内臓を傷付けないように注意していく。特に胃や食道などを間違えて傷付け、内容物が肉の部分にかかるとその部位は駄目になる。消化中の内容物は非常に臭い、その臭いは水洗いしただけで取れるものではないからな。
「うん、うまくできたぞ。最後に胴体と骨を枝肉として切り分けていこう」
無事に傷付けることなく内臓を摘出することができた。内臓もあとで心臓や肝臓などの食べられそうな部位を選別して、残りはダンジョンに廃棄する。
本来ならば解体した内臓や肉はすぐに冷やすのだが、内部の時間が止まっているマジックポーチがあれば、それを気にする必要はないのでとてもありがたい。肉は低温で熟成すると味が変わっていくので、一部の肉は後ほどマジックポーチから取り出し、冷やして保存するつもりだ。
"だいぶ手慣れたものだな。 @XYZ"
"身体能力強化が強化されているとはいえ、すごく速いよね~ @WAKABA"
"モンスターごとに内臓とかも違いそうなのに、よくこんなに早く解体作業ができるものなんだなあ。 @ルートビア"
「これまでの経験がだいぶ大きいな。モンスターを自分で解体し続けていれば、これくらいできるようになるぞ」
日々の生活で食べるために自分で解体作業をしてきたわけだからな。初見のモンスターでも4足歩行のモンスターだったら、だいたい内臓の形なんかは似ている。ウシ型やヤギ型のモンスターには胃が4つあったりするぞ。ただ、たまにどういう身体の構造をしているかわからないようなモンスターも多いんだよな。
"もしもダンジョンに住めなくなっても、凄腕の解体師として再就職先はバッチリだな! @†通りすがりのキャンパー†"
"ヒゲ面のモンスター解体師……似合いすぎだろwww @月面騎士"
"マグロの解体ショーみたいに子供たちの前でやったら、間違いなく泣き叫ばれそうだw @たんたんタヌキの金"
なるほど、確かにモンスターを解体する人の需要はなくなることがないだろうからな。
とはいえ、解体をしているとその肉を食いたくなってしまうから、それは止めておこう。
お次は切り分けた肉の部位ごとの味を確かめていくとしよう。