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第15話 交わした契約


「うわあああああ!」


 虹野なんちゃらは大声をあげ、叫びながら会場から逃げ出した。


 ダンジョン法では緊急避難により、そこまで大きな罪にはならないかもしれないが、配信者としてはもう終わりだろうな。少しやり過ぎになってしまったかもしれないが、まあ自業自得だ。


「ほら、さっさと離してやれ」


「「……っ!?」」


 会場が騒然としている中、警備員に取り押さえられている瑠奈の元へ向かう。イレギュラーのベヒーモスを倒したという俺にビビりながら、取り押さえている瑠奈を離して俺から距離を取る警備員の2人。


 今はダンジョンの外にいるから、普通に戦えばガタイの良いこの警備員にたぶん勝てないんだけれどな。


「ヒ……お兄さん!」


「おっと!」


 警備員が瑠奈を解放すると、瑠奈がいきなり抱き着いてきた。よっぽど怖くて悔しい目にあっていたのだろう。うっかり俺のハンドルネームを叫びそうになっていたぞ。


「ひっく、ありがとう……」


「もっと早く来るつもりだったんだが、遅くなって本当にすまなかった。理由は後でちゃんと説明する」


「そんなのなんでもいい! 来てくれて本当にありがとう!」


 ……さすがにこの雰囲気の中で電車の乗り換えを間違えた挙句、道に迷ったとは非常に言いづらい。


「あの!」


 瑠奈に抱きつかれていると、華奈もこちらのほうへやって来た。だいぶ泣いていたせいか、眼のふちがまだ赤い。


「あの……どうして……?」


「んっ、何がだ?」


「……どうしてまた私たちを助けてくれたんですか?」


「どうしてって、ちゃんと契約をしただろ。そっちも契約を守って俺のことを話さなかったんだから、俺もちゃんと契約を守らないと駄目だろ」


「あなたはあの時私たちを助けてくれました。それで契約は終わりなのに……」


「いや、違うな。あの時、俺は今回の件でできる限り君たちの助けになることを契約した。つまりこの騒動も今回の件に含まれるわけだ」


「えっ……」


 そうなんだよ。映像を見返してみたら、あの時俺は確かにそう言っていた。今回の件――言い方にもよるが、イレギュラーのベヒーモスの件によって生じたこの騒動も含まれるだろう。


 この2人がこんな目に遭ってまで守ってくれた契約を俺が破る訳にはいかないもんな。


 ……それに周りの人すべてが敵になったという気持ちは俺にだけは痛いほどわかる。だからこそ、この2人に俺と同じ思いをさせたくなかったという気持ちも少しあった。


「……やっぱり、とても優しい人ですね」


「いや、優しいというかこれは契約だから、今回の件で俺が2人の力になるのは契約の範囲内だ。むしろこの場に遅れてしまった俺に非がある。それについては後でちゃんと謝罪する」


「ふふ、いいんですよ、そんなこと」


 そう言いながら、華奈の方まで俺へ抱き着いてきて、また泣き始めた。


「……本当にありがとうございます!」


 2人の双子姉妹に抱き着かれて、俺にどうしろというのだろう……


 この場に残っていた人たちもこの状況をどう収拾していいのかわからずに呆然としていた。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ヒゲダルマさん!」


「華奈、久しぶりだな」


「はい、お久しぶりです!」


「ヒゲさん、久しぶり!」


「……瑠奈も久しぶりだな。それはいいが、いちいち抱き着いてくるな。さすがにもう少し女としての自覚を持て」


「大丈夫、ハグするのはヒゲさんだけだから!」


「何が大丈夫なんだよ……」


「瑠奈! 早くヒゲダルマさんから離れなさい!」


「わかったよ、お姉もどさくさに紛れて抱き着けばよかったのにね!」


「なっ!?」


 2人揃うと本当に騒がしい。まあ、あんな騒動があったあとで、これだけ元気になれたのは本当に良いことだ。


「うわっ!? たった1週間なのにもうヒゲがこんなに伸びてる!」


「昔からヒゲが伸びるのは早いんだよ。常に髭剃りは手放せなかったからな」


 あの騒動から1週間、ようやく2人の周りが落ち着いてきたところで、例の会見の際に渡しておいたダンジョン配信チャンネルとは別の連絡先に連絡が入った。


 それにしてもあの騒動のあとは本当に大変だったな。2人に抱き着かれて泣かれたあとは、ダンジョン配信チャンネルとは別の連絡先を渡して退散する予定だったのだが、その場にいたメディアや日本ダンジョン協会関係者がそう簡単に俺を逃がしてくれなかった。


 やれお前は誰だ、ダンジョン配信者なのか、華奈と瑠奈との関係はとか、イレギュラーのベヒーモスをどう倒したのかとか、そりゃあもう大変だった。


 俺の個人情報以外については多少答えてやった。とはいえ、次から次へと質問してきてキリがないので、隙をついてなんとか逃げ出してきた。


 こちとらあれだけの数の人と直接話すのは久しぶりなんだから、ちょっとは手加減しろよな。ダンジョンにいるモンスターと命のやり取りを散々してきたから別に怖くはなかったが、人に酔って気持ち悪くなったんだぞ……


「とりあえずゲート付近だと他の人が来る可能性もあるから、セーフエリアに移動しよう」


「はい!」


「うん!」


 ここは以前に2人と出会った大宮ダンジョンにある34階層だ。今外は非常に騒がしい状態になっているから、ダンジョン内で会うことにしたわけだ。ここなら今は攻略が進んでいる探索者と配信者しか来ることができないからな。


 35階層についてはまだイレギュラーモンスターのベヒーモスの調査が入っている可能性があるため、ひとつ前の34階層で待ち合わせたというわけだ。


この作品を読んでいただき、誠にありがとうございます(o^^o)

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