第143話 モンスターの動き
「そうだな、戦闘中はとにかくモンスターの動きを考えるようにしている。ダンジョンの中だと反射神経や思考能力も向上しているから、動きながら敵の行動を常に考えて、モンスターがこう動いたらこちらはこう動く、みたいな感じで戦闘をしているモンスターだけでなく、別のモンスターの動きも意識するようにしている」
ダンジョンの中では身体能力や考える能力も向上しているから、敵の動きが多少は遅くに見える。そのため、常に考えながら戦闘を行うことができるわけだ。
「さっき大和さんが言っていたけれど、まさに他のモンスターの動きもできる限り把握するようにしているんだ。視界の外にいる時もおそらくこのように動いているだろうと予測をして、余裕があれば他のモンスターの動きが視界内に入るよう立ち回っている」
「……すげえな、そこまでモンスターの動きを考えていやがるのかよ」
「まあ、これは俺がこれまでずっとソロで立ち回っていたことも大きいと思う。仲間のことは考えずにモンスターのことだけをひたすら考えていればいいだけだからね。最近はたまに華奈さんと瑠奈さんと探索をしているから分かったけれど、仲間の動きを中心に考え、モンスターの動きと並行して考えるのって結構難しいんだな」
これは華奈と瑠奈と3人で探索をするようになって分かったことだけれど、ソロで立ち回るよりもパーティで動く方が遥かに難しい。
俺がソロでひたすらモンスターを狩ってここまで強くなれたのはそれも要因のひとつだろう。当時は配信のこともまったく考えていなかったから、ひたすらにモンスターのことだけを考えて戦えればそれでよかったからな。
"いや、普通のダンジョン探索者や配信者は仲間のことを第一に考えて行動するもんなんよwww"
"やっぱこの人ってめちゃくちゃずれているよね!?"
"基本であるパーティの連携の大事さを今更わかったと言われてもwww"
"やっぱりヒゲダルマにパーティでの探索は無理w"
うん、やはりパーティの連携がまず第一なんだな。俺も一番最初はネットでダンジョンのことを調べたけれど、大半のサイトでそのように書いてあった。
一応俺なりによく考えて俺の戦闘を分析したつもりだったが、あまり役に立たなかっただろうか?
「……なるほどね。つまり僕たちも仲間のことを考えながら、これまで以上にモンスターの行動を意識していけば、もっとうまく戦闘を行えるようになれるかもしれないってことかな」
「おう。ぶっちゃけ仲間のことばかりを意識して、視界外のモンスターの動きまではそれほど意識していなかったからな。それを意識するだけでも、多少はマシになるだろうぜ」
「ええ、とても貴重な情報をありがとうございました。これまで以上にモンスターの動きに注視するよう心掛けていきます」
「少しでも参考になったならよかったよ」
多少なりとの参考になったのならなによりだ。とはいえ、ここからが本番だ。
38階層で何度か戦闘を繰り返し、4人パーティでの戦闘を試してみて、いよいよ51階層へと場所を移した。
「さあ、ここからが本番だ。51階層は湿地帯の階層か」
湿地型の階層は薄暗い雰囲気で、所々にある沼の柔らかな足場が特徴だ。前回横浜ダンジョンで50階層のデュラハンを周回した際は51階層へ足を踏み入れて、すぐに後ろにある帰還ゲートで50階層へ戻っていたから、実際にこの階層を探索するのは初めてである。
那月さんたちの最高到達階層はこの上の53階層だけれど、俺はまだ横浜ダンジョンの51階層を攻略していないから、52階層まで行くことができない。そのため、まずはこの51階層からだ。
那月さんたちは次の階層までのマッピングは終えているが、普段の俺の探索の方法も見たいということだったので、真っすぐに次の階層へのゲートへは向かわずに初見の階層と同じ感じで探索をするようにした。
「改めて言うことではないですが、ここからはさっきまでのモンスターとは比べ物にならないくらい強いモンスターが出現してくるので、一層気を付けていきましょう」
「おう」
「了解だよ」
「ああ、もちろんだ」
那月さんの言う通り、ここは先ほどまでの38階層と比べて13階層も深い階層だ。ダンジョンの階層が10も異なれば、そこに現れるモンスターは格が違うといっても過言ではない。
俺にとっても横浜ダンジョンの51階層は初見なので、いつも以上に周囲へ気を張って探索をするとしよう。
"いよいよ51階層だぜ、ヒャッハー!"
"横浜ダンジョンの51階層が配信されるなんて初めてのことじゃねえの? トップレベルの探索者は配信なんてしないし、ガチの配信者なら無料でも40階層までだと思う"
"すでに同接数がとんでもない数になっている件についてw 下手したらこれまでの記録を遥かに上回るんじゃない?"
あまり意識はしていなかったけれど、配信の方も順調なようだ。
那月さんたちのおかげで、いつも以上にリスナーが集まって来ている。