第142話 互いの戦闘
「……周囲に敵影なし。戦闘終了」
「ふう~。結構数が多かったね」
「これくらいどうってことねえな」
無事に金色の黄昏団の3人による戦闘が終了した。
このフロアにいたのはレッドオーガが3体だった。戦闘中に反対側の通路からさらに2体のブラッドバットという蝙蝠型のモンスターが現れたが、那月さんたちはそれにも問題なく対処していた。
当然戦闘が終了した後も油断はなく、パーティでの連携も完璧に見えた。連携の面では華奈と瑠奈も負けてはいないと思うが、個々の能力の高さはこの那月さんたちの方がまだまだ上だな。
"金色の黄昏団の戦闘は初めて見たけれど、すごい強さだな。トップレベルの探索者は配信をしている人が少ないからめちゃくちゃ参考になる!"
"個人の身体能力なんかはヒゲダルマの方が高いだろうけれど、連携が半端じゃないし、ちゃんと戦闘をしているって感じがする"
"それなw ヒゲダルマの配信はだいたいクビチョンパをして一瞬で終わるから、あまりモンスターとの戦闘を見ている気がしない。まあ、そっちの方が強いってことなんだけれど"
"ただ、それは身体能力と武器の能力でゴリ押ししているだけなんだよな。戦闘の技術的にはこっちの方が断然すごいことをしている"
……リスナーの人たちもだいぶモンスターの戦闘に詳しいよな。言っていることはまさにその通りで、俺のこういった戦い方は深い階層のモンスターには通用しない。
敵のモンスターも首や弱点は本気で守ってくるし、首ばかりを狙っているとカウンターを狙ってくることもあるから、今の那月さんたちのように少しずつ削ってからとどめを刺すことになる。
「すごい連携だったよ。というか、俺なんかがアドバイスできることなんてない気もするけれど……」
「いえ、例のデュラハンの配信のヒゲダルマさんの動きは本当に無駄がなく洗練された動きでした。間近で見させてもらうだけでも勉強になりますよ」
「そうか。参考にしてもらえるように頑張るよ」
参考になるのかはわからないけれど、那月さんたちがそう言うのなら、見本になれるよう頑張るか。
「……このフロアにはモンスターが4体いるな。問題はなさそうだけれど、何か不測の事態が起こったら、援護を頼むよ」
「はい、承知しました」
「おう、任せておけ」
「いやあ~楽しみだね!」
通路を進み、次のフロアの様子を見ると大小合わせて4体のモンスターがいた。
洞窟型の階層は草むらや木なんかがないから、奇襲をするには難しい階層になっている。反対に奇襲を受ける可能性が低いのは利点でもあるところだけれどな。まあ今回は戦闘を見せることが目的だから、どちらにせよ奇襲ではなく普通の戦闘をするつもりだった。
「ふう~」
一度深呼吸をする。
いくら38階層とはいえ、油断は禁物だ。那月さんたちが見ているからといって、調子に乗ったりいつもと違う動きをしないよう気を付けるとしよう。
「……よし、もう動かないな。出てきても大丈夫だよ」
無事にモンスターとの戦闘が終わった。もちろん手傷などは負わず、いつも通りに戦えたと思う。
「「「………………」」」
「えっと、何かおかしなところがあったかな?」
「い、いえ! やはり実際に自分の目でヒゲダルマさんの戦闘を見て驚いただけです。動きがとても速くて、目で追うのがとても大変でした」
「それに動きにまったく無駄がないよね。あんなに大きな剣を使っているのに、よくそんなに洗練された動きができるよ……」
「しかもモンスターとの戦闘中にも別のモンスターまでケアしていやがった。デュラハンとの戦闘は1体だったから分からなかったが、複数のモンスターと戦う時はこういう戦い方なのか」
……なんだか俺の戦闘をものすごく分析している。3人とも華奈と瑠奈くらい本気なようだ。
"いや、ヒゲダルマの動きをそれだけ分析できるだけで、この3人も相当ヤバイからね!?"
"俺たちには走った、消えた、モンスターの首が落ちたしか分からなかったからな……"
"同じく金色の黄昏団の戦闘も速すぎて、スローにしないと追えないくらいだったから、どっちもどっちに見えたぜw"
"ぶっちゃけ、トップレベルの探索者ってダンジョンの中だけだけど、人間やめているよねw"
確かにリスナーさんたちの言う通り、俺の動きをこれだけ分析できるほど、那月さんたちはダンジョンでモンスターを倒してきたのだろう。
そういえば、限定配信のリスナーさんたちにも人間やめているって言われた気がするな。
「戦闘中には何を考えているか聞いてもよろしいですか?」
「もちろん。答えられることには何でも答えるから聞いてくれ」