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第14話 ヒーローは遅れてやってくる(ただの遅刻)


 瑠奈が声を荒らげる。私も理解が追いついていない。


「マ、マネージャーさん、虹野虹弥の話が変わった証言をしてください!」


「なんの話でしょうか?」


「そんな………………」


 うそ、裏切られた……


 私達が配信を始めた時からずっと一緒にこのチャンネルを作ってきたのに……


「うっ……うう……」


 妹の次に信頼していたマネージャーさんに裏切られた。堪えようとしても両眼から涙があふれてくる。


「おいおい、立場が悪くなったら泣き落としか? これだから、ちょっと顔が良いだけの女ってやつは」


「このおおおおお!」


「瑠奈、駄目!」


 虹野虹弥の暴言に抑えきれなくなった瑠奈が飛び出そうとするが、すぐに横にいた警備の人に取り押さえられた。


 ダンジョン内では人知を超えた力を得ることができるが、それはダンジョンの中だけに限られる。今の私たちは人並みの力しかない。


「うう……お姉を馬鹿にするなあ!」


「やれやれ、今度は暴力か。まったく、こういう輩がいるからダンジョン配信者の質が落ちたなんて言われるんだよ」


「ううう………………」


 憎い……


 あいつを殺してやりたい……


 悪いのはあの男のはずなのに……


 どうして誰も私達の話を信じてくれないの……


 私達には何もできない。それを思うと涙が止まらない。これまでずっといろんな不運にも負けずに瑠奈と2人で頑張ってきたのに……


 どうしてこの世界はこんなにも理不尽なの……




 ガチャッ


 大きな音と共に、会場の後ろの扉が開いた。


「おい、こいつを通したやつは誰だ! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」


「関係者だ。悪いがそこをどいてくれ」


 突然会場に現れた謎の男性。会場にいた全員の視線はその人に集中する。


 俳優かアイドルのような整った顔立ちをして、スラリとした長身に真新しいスーツを着ている。


「あっ……」


 初めて見る顔だけれど、ぶっきらぼうな声とその優しい瞳には覚えがあった。


「大丈夫か? まったくもって、災難だったな」


 そして彼は、初めて私を助けてくれた時と同じ言葉を呟いた。




――――――――――――――――――――――――――


「おい、警備員。早くこいつをつまみ出せ!」


「さっきも言ったが、俺は関係者だ。そこの2人には黙っていてもらったが、俺がイレギュラーモンスターのベヒーモスを倒して、その2人を助けた。そしてそこにいる男が華奈をモンスターの囮にして逃げたところを目撃している」


「んなっ!?」


 ざわざわと会場中が騒ぎになる。


 なんとかギリギリのところで間に合ったらしい。


 ……本当はこの会見が始まる前に会場へ着く予定だったんだけれど、数年ぶりにまともにダンジョンの外に出て、電車に乗り間違えた挙げ句、道に迷ってしまった。東京ってこんなに分かりにくい街だったっけか?


 せっかくたった1日でいろいろと調べてアドバイスをしてくれていたリスナーさん達にはあとで土下座をして謝罪しよう。華奈と瑠奈は泣いているし、2人にもとても申し訳ないことをしてしまった。


「で、でたらめだ! おい、さっさとそいつをつまみ出せ!」


 虹野なんちゃらが声を荒らげて、俺を会場から追い出すように叫ぶ。あんだけ動揺していたら、自分になにか不都合なことがあると言っているようなもんだけれどな。


「これがベヒーモスを倒した証拠だ」


 マジックポーチの中から、解体したベヒーモスの骨や皮、そしてベヒーモスの頭を取り出した。さすがの俺でも頭は食わないので、角だけ残して処分しようとしていたやつだ。


「んなっ!?」


「こ、これは!? イレギュラーモンスターのベヒーモスかは分かりませんが、確かに今まで見たこともないほどの素材です!」


「こっちの毛皮の色は動画で見たベヒーモスと同じ色をしている。それにこの頭はどう見ても……」


 会場には白衣を着たモンスターの有識者やモンスターに詳しいメディアの人もいたようで、俺が出したベヒーモスの素材を検分している。


 この会見の様子はリスナーさんたちに報告を受けていたから、進行の人が買収されていたらしいということは知っているが、どうやらこの会場にいる全員を買収したわけではないようだ。


「う、嘘だ! 俺でもまったく敵わなかったイレギュラーモンスターのベヒーモスをお前なんかが倒せるわけがない! そ、それにたとえこの素材が本物のベヒーモスだったとしても、俺がこの女を囮にしたなんて証拠にはならねえはずだ!」


 ……なんか小物感が半端ないけれど、この男が本当にトップ配信者でいいんだよな?


「それじゃあ、ご要望の証拠だ」


「な、なに……」


 マジックポーチからデバイスを取り出す。これはダンジョン配信のコメントを宙に表示する腕輪のように、映像を宙へと映すものだ。


 ……ここ数年でこういった技術もだいぶ進んでいたんだな。腕輪よりも小さいのにこんなに大画面で映像を映せるんだからすごいわ。なんだかしばらく外から離れていただけで浦島太郎のようだ。


「お、おい、あれって……」


「遠目からだが、確かに虹野虹弥が配信ドローンを破壊して、女性を囮にしている……?」


「う、嘘だああああああ!」


「おい、今すぐ配信を止めろおおお!」


 虹野なんちゃらとこの場のお偉いさんが叫んでいる。そういえばこの会見はライブ配信されているんだったな。


 ライブ配信中に乱入してしまえば、さすがにダンジョン協会でもこの証拠を握りつぶすことはできないだろう。


「ついでにおまけだ。今の動画をコピーしたものだから、配信に使うなりニュースに使うなり自由に使ってくれ」


 今の動画をコピーした小さなデバイスをばらまいた。すると席に座っていた記者のような人たちがそのデバイスを一斉に拾い始める。


「まだ夜のニュースに間に合うな! トップニュースだ!!」


「トップダンジョン配信者、仲間を囮にして自分だけ逃げ延び、それを仲間に擦り付ける。これは伸びるぞ!!」


 会場は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。

ここまで読んで頂きまして誠にありがとうございます!

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誤字脱字、日本語のおかしいところがありましたら教えて頂けますと非常に嬉しいです( ^ω^ )

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