第139話 報酬と配信
「ああ、もちろん協力させてもらうよ。以前お世話になったし、報酬とかも不要だ」
以前に助けてもらったこともあるし、当然のことである。
「ありがとうございます、ヒゲダルマさん! ですが報酬はしっかりと受け取っていただきますよ。以前の件の分の報酬はすでにいただいておりますから」
月面騎士さんの母親を助けてもらった時はそれまで横浜ダンジョンのボスモンスターであるデュラハンの周回で手に入れたマジックアイテムや魔石なんかをすべて渡したのだが、結局ハイポーションだけしか受け取ってくれず、残りはバーベキューの時に返却してくれた。
……俺としてはその時の恩はまだ返せていないと思っているのだが、確かにこちらが何も受け取らないのは向こうとしても少し微妙かもしれない。
「わかった。それじゃあ現金はいらないから、那月さんたちが持っている不要なマジックアイテムを見せてほしい。大宮ダンジョンで手に入らなくて便利なマジックアイテムがあればそれがほしいな」
「はい、もちろんです。後ほどリスト化してお送りしますね」
「了解だ、確認しておくよ。それともし宝箱を発見して例の天使の涙が出たら、それがほしい。実はつい最近半分くらい使ってしまったんだ。他のマジックアイテムが出たら那月さんたちの取り分ってことでどうだ?」
月面騎士さんの母親を助けた際に使った天使の涙とは別に、後日たった3回デュラハンを周回して得た天使の涙の半分の量を例のDQN配信者の精神を回復するために使ってしまったんだよな。
ちなみにデュラハンを3回周回したところで天使の涙が出たことはバーベキューの際那月さんたちに笑い話として話してある……
「いえ、探索中に見つけた宝箱はどちらにせよヒゲダルマさんの報酬でお渡ししようとしておりましたので問題ございませんよ。もちろん普段通りの配信もしていてもらって構いませんよ」
「えっ、配信してもいいのか? 那月さんたちはダンジョン配信に映るのが好きじゃないと思っていたんだが」
「いや、ダンジョン配信で映るのは別に問題ないよ。ダンジョン探索雑誌やネットとかのインタビューなんかは普通に受けているしね」
「……単純にダンジョン配信者のやつらに気に入らねえやつらが多いだけだ」
俺の質問に零士さんと大和さんが答えてくれる。特に大和さんの方はお酒を飲みながらイライラとしている様子だ。
……もしかすると、先日の俺みたいにDQNダンジョン配信者から何か嫌なことをされたのかもしれない。
そんな中でも一応はダンジョン配信者である俺の配信に映るのを許可してくれたのは少し嬉しかったりする。
「ヒゲダルマさんの配信チャンネルでは常に前線での戦闘を配信しておりますからね。他のダンジョン探索者の方へ参考にもなるでしょうし、ぜひ協力させてください」
「わかった、ありがたく配信させてもらうよ。ただ別に俺は他の探索者のために配信をしているわけじゃないし、そこまでチャンネル登録者数とかは気にしていないから、少しでも嫌だったら遠慮なく言ってくれ」
俺が一般配信をしている理由の中には他の探索者の参考になればよいという考えもあるといえばあるが、ほんの微々たるものだ。基本的にダンジョンに入るのは自己責任だからな。
そんなことよりも、以前の月面騎士さんの緊急事態のように情報や必要なマジックアイテムがある時に少しでも確率を上げるためと、華奈と瑠奈にちょっかい出してきた相手への対抗手段としての理由の方が強い。
そのため熱心なダンジョン配信者は毎日のように配信をしているが、俺が一般配信をするのは週に1回くらいだ。俺の配信チャンネルの配信頻度は低いが、2人の件や例の横浜ダンジョンの件もあって、チャンネル登録者数は今も増え続けている。
「いえ、ヒゲダルマさんは信用できるので大丈夫ですよ」
「………………」
世の中のダンジョン探索者や配信者が那月さんたちのような人たちばかりなら、もっと探索者や配信者同士で協力してダンジョンを攻略することができていただろうな。
「それじゃあ、ありがたく配信はさせてもらうよ。大まかな話はこれくらいで大丈夫かな、細かいところはあとで詰めようか」
「ええ。それではよろしくお願いします。さあ、今日は楽しみましょう!」
「楽しくなってきたね! さあ、今日は飲んじゃうよ~」
「おう、しばらくの間よろしく頼むぜ」
そんな感じで大まかな打ち合わせをした後はこのお店で3人と楽しんだ。
お酒が入ったこともあって、その後は3人と一緒にダンジョンの話をしたりして楽しめた。リスナーさんや華奈や瑠奈たちと探索をしたり料理を楽しむのももちろん楽しいけれど、同年代くらいの男性たちとこうやって話すのも楽しいものだ。




