第138話 料理店
「うん、酒も料理もおいしいな」
「ええ、このお店は初めて来たのですが、なかなかおいしいですね」
ビールで乾杯をして、料理を楽しむ。
那月さんの言う通り、この店の料理やお酒はなかなかうまい。
「最近はモンスターの食材を使う店も増えたよな」
「畜産をするよりもダンジョンでモンスターを狩ったほうが早いからね。もちろん危険はあるけれど、低い階層ならリターンの方が大きいと思うよ。ダンジョンが出現してからこれまでの生活が一変したらしいよね」
このお店ではダンジョンで討伐したモンスターの食材を使用している。
俺にとっては少し物足りない食材だが、それでもダンジョンの外では結構な高級食材だ。それに料理人の腕がいいのか、味はなかなかいける。
零士さんの言う通り、ダンジョンが出現してからモンスターの素材や魔石やマジックアイテムなど、これまでの生活が一気に変わっていったんだろうな。今はもうだいぶ落ち着いたけれど、ダンジョンが出現した当時は本当に大変だったに違いない。
「ダンジョンのモンスターを生きたままこちらに持ってくることは無理ですし、卵もダンジョンの外では孵らないようですから畜産も難しいでしょうね」
確か生きたモンスターを連れてダンジョンの帰還ゲートを通ることはできず、持ち帰ることができるモンスターの卵はこちらの世界では孵化しないという研究結果が出ている。
現在のところはダンジョンで狩ったモンスターの素材を持って帰ることしかできないようだ。
「浅い階層でモンスターの牧場を作る計画もあったらしいけれど、さすがにダンジョンを私物化するのは許されないから、その計画はポシャッたらしいね」
「そうなんだ……」
モンスターはダンジョンの中で自然発生するが、普通の生殖活動もする。それを利用してダンジョン内で畜産を生産する計画もあったらしい。
うん、俺もダンジョンを私物化してダンジョンに住んだり畑を作っているから、零士さんの言葉は少し刺さる……大丈夫、ちゃんと誰かが来たら撤収するつもりだから!
「そういや、バーベキューの時は飲んでいなかったが、普通に酒は飲めるんだな」
「ああ、あの時はダンジョンの中だったし、華奈と瑠奈は飲めないからな。そこまで酒に強くはないけれど、一応状態異常に効く薬を持っているから大丈夫だ」
俺も普段それほど酒は飲まない。というのも俺の家があるのはダンジョンの中だからな。セーフエリアの中とはいえ、酒でベロベロに酔っぱらってセーフエリアの外に出てしまったら命にかかわる。
とはいえ、酒は嫌いじゃないから、夜桜に頼んでおすすめのビールや日本酒を寝る前に少しだけ飲んだりする。
……ちなみにダンジョン内で米が育てられたら酒造りにも挑戦しようと思っていたけれど、調べてみたら個人で酒を造るのは違法らしい。どうやら酒税法が関係しているようだ。
「あのバーベキューは楽しかったね! イレギュラーモンスターのベヒーモスもおいしかったし、華奈ちゃんと瑠奈ちゃんは可愛かったし最高だったよ」
「確かに楽しかったね。それに華奈さんも瑠奈さんも綺麗なだけじゃなくて、真剣にダンジョン攻略をしていたみたいだし、ダンジョン配信者の中にもああいう人たちがいることに驚きました」
「……けっ。まあそこまで悪くはなかったな」
どうやら前回のバーベキューはみんな楽しんでくれたようだ。大和さんも悪態をついているみたいだけれど、今のは照れ隠しだろう。
「楽しんでもらえてよかったよ。2人も楽しかったと言っていたし、またみんなでバーベキューでもしよう」
「ええ、ぜひよろしくお願いします。……それではそろそろ本題なのですが、実はヒゲダルマさんには少しの間私たちのパーティに参加してほしいのです」
「ああ、もちろん構わないぞ」
「いや、まだこちらの条件とかも伝えていないんだけど……」
「零士さんたちには以前天使の涙の件でとてもお世話になったからな。報酬とかも不要だ」
那月さん、零士さん、大和さんには月面騎士さんの母親を助けてもらった恩がある。
あの時は本当にお世話になったし、報酬なんて不要だ。
「えっと、そのお気持ちはとても嬉しいのですが、まずは説明をさせてください。現在私たちは横浜ダンジョンの52階層を攻略しているのですが、なかなかモンスターも強くなってきて少し躓いております。以前ヒゲダルマさんが50階層のボスモンスターと戦っていた配信を拝見したのですが、とても素晴らしい動きでした」
確か俺が天使の涙を手に入れるためにデュラハンを周回していた配信を参考にして、那月さんたちもデュラハンを倒したんだっけ。
「一週間ほど私たちのパーティと一緒に行動していただいて、ヒゲダルマさんの戦闘を直に見せていただき参考にさせていただけないでしょうか? 報酬としては現金か私たちが所持しているマジックアイテムでお支払いしたいと思います」
「ヒゲダルマさんの配信を見せてもらったけれど、やっぱり配信用のドローンだと限界があるからね。ダンジョン内で実際の動きを見せてもらえるとすごく助かるんだよ」
「すまねえが俺たちに協力してほしい」