第137話 久しぶりの連絡
「……ふう、今日はこんなところにしておくかな」
華奈と瑠奈の40階層突破のお祝いから3日ほど経った。
今日はのんびりと限定配信をしている。
"例のDQN配信者も大人しくなったし、最近は平和だな~ @ルートビア"
"うむ、平和が一番である。この前の2人の水着姿が尊過ぎたおかげで、すべてが満たされている状態だな。全世界の人があの配信を見れば戦争など起きなくなるのに。 @ケチャラー"
"今日も50階層くらいのモンスターを倒して、のんびりと料理を作っている配信だったな。 @XYZ"
"まあ、50階層でのんびりというのも本当はおかしな話なんだがなw @†通りすがりのキャンパー†"
まあいつもに比べたら、50階層のモンスター程度は大丈夫だろう。もちろん油断をするつもりもないがな。
ピコンッ
「あれっ、那月さんから連絡だ。珍しいな」
そろそろ限定配信を終わろうと思っていたら、腕輪のデバイスに通知が入った。
連絡は金色の黄昏団のリーダーである那月さんからだ。以前に天使の涙を手に入れるため横浜ダンジョンで知り合ったダンジョン探索者で、あの時は月面騎士さんの母親を助けるのに力を貸してくれた人たちだ。
"ちょこちょこニュースを見ていたけれど、あのあとも順調に横浜ダンジョンの攻略を進めているみたいだな。もう52階層まで攻略を進めていたみたいだぞ。 @†通りすがりのキャンパー†"
"金色の黄昏団から連絡なんて珍しいな。なんだって? @ケチャラー"
「へえ~順調に攻略を進めているみたいで何よりだよ」
50階層のボスモンスターであるデュラハンを倒したあとも順調に攻略を進めているようだ。
パーティリーダーの那月さんと最後に連絡を取ったのは例のDQN配信者の時だったな。その時は俺を心配してくれて、俺が例の動画がでっちあげだと伝えたら信じてくれて、何かできることがあれば力になると言ってくれた。
結果的にはこちらでいろいろと動いて問題は解決したけれど、そう言ってくれてとても嬉しかった。
「……なるほど、今少しだけ攻略に躓いていて、ダンジョンの攻略について教えてほしいという話だな。詳しい話はこのあと実際に会って話をしたいらしい」
"……ヒゲダルマに教えを請いたいとか本気なのだろうか? @XYZ"
"実際に一緒にダンジョンへ潜るとしても、相手は50階層を超えているダンジョン探索者だし、ヒゲダルマの動きもある程度追えるだろう。ヒゲダルマの動きを見ているだけでも参考にはなるんじゃないか? まあ、参考にしてはいけない部分もいっぱいあるが…… @†通りすがりのキャンパー†"
"それなw @ケチャラー"
「確かにソロの動きとパーティでの動きは違うからな。とはいえ、最近は2人とも探索に行くことが増えたし、俺もその辺りは多少気を使えるようになったと思うぞ」
"……いや、たぶんそういう意味じゃないと思う。 @ルートビア"
「うん? とにかく那月さんたちから頼まれたのなら断る理由はないな。わざわざ大宮の方まで来てくれるみたいだ。ちょうど配信はこれで終わろうと思っていたから、今日はこれまでだな」
"了解。何かこちらでも手伝えることがあったら言ってくれ。 @ケチャラー"
"月面騎士の時には助けてもらったもんな。 @XYZ"
「ああ、ありがとう。その時はまた相談させてもらうよ」
リスナーのみんなと話を終えて限定配信の放送を切る。XYZさんの言う通り、那月さんたちには月面騎士さんの母親を助けてもらった恩がある。俺にできることなら、迷わず力を貸すつもりだ。
「ヒゲダルマさん、こちらです」
「那月さん、久しぶり」
大宮ダンジョンを出て、金色の黄昏団に連絡されていた、人が少なくちょっとした料理屋へと入る。予約されていた那月さんの名前で入ると個室の方へと案内された。どうやら向こうはもう店に来ていたようだ。
もちろん前回の夜桜の件もあったため、ちゃんと変装をしてからタクシーを乗り継いで移動し、尾行がないことにも気を付けた。
「おう、久しぶりだな」
「この前のバーベキューは楽しかったよ。そっちはなんだか大変だったみたいだね」
「大和さんも零士さんも久しぶり。本当に散々な目に遭ったけれど、運よく動画元のやつらが逮捕されて動画が消えてくれたおかげでなんとかなったよ」
例のDQN配信者についてはそういうことになっている。あまりにもタイミングが良すぎるから、もしかしたら3人とも薄々は気付いているかもしれないけれど、言わぬが花というやつだ。
「今日はわざわざお時間を取っていただきありがとうございます。……それにしても、ヒゲダルマさんは髭がないと全然印象が違いますね」
「ああ、よく言われるよ。昔から髭が伸びるスピードが速くて苦労してきたんだ」
今日は3人に会うということで、ヒゲを剃って俺なりにちゃんと身なりを整えてきた。俺だけなら気にしないが、お世話になった3人に何か迷惑を掛けてしまったら大変だからな。
それに今日はダンジョンの外の店ということで、いつものシャツではなく多少はちゃんとした格好をしている。当然3人も私服だ。華奈も瑠奈もそうだが、ダンジョンの外で会うと、ダンジョンでの雰囲気とはだいぶ変わるよな。
「それではお話はあとにしてまずは乾杯しましょう」




