第13話 会見【華奈Side】
「瑠奈、大丈夫?」
「う、うん。お姉こそ大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃないけれど、頑張るしかないわね……」
会場の控室。私たちは今そこにいる。
これから先日の件の会見が行われる。その内容はリアルタイムで配信される。
……たぶん会見というのも詭弁でしょうね。すでに日本ダンジョン協会の人たちは私の言い分をまったく聞いてくれずに、虹弥さんの言い分を押し通そうとしていることは私にも分かっている。
「瑠奈、分かっていると思うけれど……」
「うん、絶対に言わないから大丈夫!」
先日私たちはある人に命を救われた。最初その人を見た時にはあまりにヒゲが凄くてとても驚いてしまったわね。
ヒゲダルマさんは最初妹を助けてくれないと言っていたけれど、それも自分の命がかかっているダンジョンの中なら当然のこと。それに、多分本来彼はとても優しい人なんだと思う。
私たちを助けてくれたあとは私の小さな怪我まで心配してくれて、見たことのないような高価なハイポーションを使ってくれた。ぶっきらぼうな言い方をしていたけれど、実際には私たちに気を遣ってくれていることが凄く伝わってきた。
ダンジョンの外でいろいろとあってダンジョンに引きこもっていると言っていたから、きっと優しかった彼をあれほど変えてしまうほどの出来事があったんだと思う。
「あの人は私たちの命を救ってくれたわ。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないものね」
最初に渡したマジックポーチも返してくれたし、結局ヒゲダルマさんはなんの見返りもなく私たちを助けてくれた。私だけでなく、大切な妹の瑠奈の命まで助けてくれたことを私は一生忘れない。
そして彼は目立ちたくないとも言っていた。災害級の力を持つベヒーモスのイレギュラーモンスターを一瞬で倒す力があり、瀕死の怪我すらも治すことができるマジックアイテムを持つ探索者でありながら、それを決して驕らないあの人は本当に素敵だと思う。
ヒゲダルマさんのことは話さないと瑠奈と決めた。一度はヒゲダルマさんに連絡を取って、あの時の動画が残ってないか聞こうとしたけれど、動画の出所について説明できずに彼に迷惑をかけてしまうと思い留まった。
彼には命を助けてもらった。だから、あとは自分達でなんとかしてみせる。
「……私を囮にして1人で逃げたあの男には絶対に一矢報いてやるわ!」
「うん!」
今の状況から私の訴えが通ることは難しいと思うけれど、それでもあの最低な男には絶対に一矢報いてやるわ!
「それではこれよりダンジョンツインズチャンネルの華奈様と瑠奈様、虹野チャンネルの虹野虹弥様による会見を始めさせていただきます。なお会場の様子はダンジョン協会の公式サイトにてライブ配信されております。それではまず、ことの経緯につきまして説明させていただきます」
いよいよ会見が始まった。こちら側の席には瑠奈と私達とこのチャンネルを作り上げてきた事務所のマネージャーさん、そしてテーブルを挟んだ先には向こうの事務所のマネージャーと私を囮にして逃げた虹野虹弥が座っている。
その周りには大勢のメディアの人たちや、ダンジョン協会の偉い人や専門家の人たちがいて、たくさんのカメラが回っている。
「……という経緯で、シルバーウルフの群れに襲われている最中に突然配信ドローンを破壊し、足を払って相手を囮にしたというのが双方の主張となります。なお、イレギュラーモンスターのベヒーモスがまだ35階層に存在するものと思われるため、現在35階層は閉鎖されております」
私と瑠奈はヒゲダルマさんのことは誰にも話していない。瑠奈と話し合って、私はシルバーウルフの群れからなんとか逃げ出し、瑠奈を探して帰還したという話になっている。
瑠奈の方はベヒーモスの一撃を受けた時に持ち主が危険な状態になって配信が遮断された。ヒゲダルマさんとハイポーションのことは話せないから、死んだと思って気を失って、目を覚ましたら怪我もなく、そこにはもうベヒーモスはいなかったという話になっている。
……そのことがあまりにも不自然で、私たちの話が信じてもらえない理由になっているけれど、そればかりは仕方がない。
「なるほど、それでは華奈様は本当にひとりで5~6体のシルバーウルフの群れから、逃げ切れたのですね」
「……はい」
「分かりました。シルバーウルフとは単体では30階層レベルの探索者でも倒すことは可能ですが、群れとなるとその連携により遥かに難易度は増します。虹野虹弥様は配信にて単独でシルバーウルフ5体の討伐を達成したことを補足しておきます」
「………………」
さっきから、進行役の人がやけに虹野虹弥の肩を持っている。もしかしたら買収されているのかもしれない。
「……という経緯で双方がダンジョンより帰還し、お互いが相手を囮にして逃げたと主張されております」
だけど私達にはひとつだけ有利な点がある。それは虹野虹弥が話を変えたことだ。
ダンジョンから帰還した時、彼は私が身を挺して私が自分から囮となったという美談に仕立て上げようと周囲に話をしていた。けれど私と瑠奈が無事に帰還したことで、私が彼を囮にして逃げたという話に切り替えた。
この話は私達のマネージャーさんや他の関係者の人達が聞いている。それこそ明らかに虹野虹弥が嘘を吐いている証拠で、私達はその証言にすべてをかけるしかない。
「それではダンジョンツインズチャンネルのマネージャー様、ここまでについてはよろしいでしょうか?」
「……はい、特にございません」
「えっ!?」
「マネージャーさん!」