第126話 悪事
以前にダンジョン内で華奈と瑠奈を襲った虹野から回収したマジックポーチの中には殺傷性の高い武器や様々な禁止マジックアイテムが入っていた。普段は禁止マジックアイテムを入手したらすぐに捨てている俺だが、虹野から回収したマジックポーチに入っていた禁止マジックアイテムは証拠品として持っている。
その中には禁止マジックアイテムに指定されてはいないが、情報がまったくないマジックアイテムも入っていた。おそらくこれは俺が持っていた透明腕輪と同じで、禁止マジックアイテム級にヤバいマジックアイテムの可能性がある。
これらの使い方の分からないマジックアイテムはその使い方を把握しておきたいという気持ちもあったのだが、狂戦士の腕輪の様に使用者に問題が起こる危険な物もある。
そのため、モンスターに虐待や拷問をしている様子を配信しているこいつらにも同じ気持ちを味わってもらうことにしたわけだ。こいつらがいたぶってきたモンスターの気持ちを少しでも感じれば、こいつらも同じことを繰り返さなくなるかもしれない。
「さて、それじゃあまずはこのマジックアイテムからだ。一応モンスターには試して、即死するようなマジックアイテムじゃないことは確認しているから安心してくれ」
俺はマジックポーチから出したマジックアイテムのうち、10センチメートルほどの小さな針の形をしたマジックアイテムを取り出した。
マジックアイテムの中には人に向ければ殺傷性のある物も存在するが、身体能力が向上したダンジョンの中で人が即死するような物はほとんどない。
怪我くらいならあとでポーションを使って治療できるが、さすがにこいつらが即死してしまっては俺も困るからな。
「そうだな、今回のお題は今の右隣にいるやつが今までにしてきた一番酷い悪事を教えてくれ。その悪事の中で俺が一番酷いと思ったやつにこのマジックアイテム使う。ほら、そっちのお前からだ」
「えっ、俺!?」
俺はロン毛を指差す。今ロン毛の右隣にいるのはドレッドだ。
「あっ、いや、いきなりそんなことを言われても……」
最初に話を振られたロン毛はドレッドの悪事を話していいのか分からずにあたふたとしている。
「時間切れだな。ちなみに話がなかったらなしでも構わないぞ。まあ、全員がなしだったら全員に試してもらうけどな」
「んなっ!?」
「それじゃあ次はお前だな」
次はロン毛の右隣にいたドレッドの番だ。ドレッドの隣には茶髪がいる。
「……こいつは立小便をしょっちゅうやっているぜ」
「なるほど。悪事としては軽いが、お前は悪事なしだから、これでお前が選ばれることはなくなったわけだ」
ロン毛はドレッドの悪事を話していないから、この時点でドレッドが選ばれる可能性はなくなったし、茶髪の恨みを買わないように大したことがない悪事を話している。ドレッドはなかなか機転が利くな。
「それじゃあ今度はお前だ。今はお前の悪事しかないから、お前の立小便の悪事以上のことがなければ、このマジックアイテムはお前に試してもらうことになるぞ」
続いては茶髪がリーダーの金髪ピアスの悪事を話す番だ。
「こ、こいつは前に夜街中の壁にペンキで落書きをしていたぜ! しかもわざわざ落書きを落とし難いペンキを使っていた!」
「おい、てめえ!」
本当に陰湿なことをしているな。まあ、こいつらの言動からそれくらいのことはしていると思っていたが。
「ほう、そいつはなかなかの悪事だな。さて、それじゃあお前で最後だ。一番の悪事は誰になるかな?」
「……こいつが小学生のころ、クラスメイトをイジメまくって不登校に追い込んだことを前に自慢していたぜ」
「て、てめえ!」
金髪ピアスがロン毛の悪事を迷わずばらす。このままでは自分が選ばれると思って、かなりの悪事をばらしたな。
「ふむ、どう考えてもそれが一番の悪事だな。それじゃあ、このマジックアイテムはこいつで試すことに決定だ」
「ま、待ってくれ! 頼む、もう一度だけチャンスをくれ!」
当然ながらマジックアイテムを試すのはロン毛に決定だ。やはりこのロン毛もまともそうに見えたがこんな配信をしているだけあって、根性がねじ曲がっているようだな。
「今回はお前に決定だ。どうせまだ次もある。さて、それじゃあこのマジックアイテムはお前がこいつに試してもらおうか」
「お、俺がやるのかよ!?」
俺はロン毛の悪事を言った張本人である金髪ピアスの拘束を解いてマジックアイテムの針を渡す。
「ああ、次回以降もそいつの話をした本人にやってもらう。やれないというのなら、立場を逆にしてもらうが……」
「ま、待て! 分かった、俺がやる!」
この状況であれば、ロン毛は迷わず金髪ピアスにマジックアイテムを試すことが分かってるため、すぐに俺からマジックアイテムを受け取る。
「試すマジックアイテムは6個だから、うまくいけば1~2人は一度もマジックアイテムを試すことなく解放されるかもしれないな」
こんな感じでこいつら自身をお互いに争わせていくことも忘れない。リスナーさんから聞いたのだが、人はあまりにも強大な敵がいる場合にはそこに反抗することは諦めて、身近な者で争うらしい。今回の場合は俺に反抗することは諦め、こいつら自身で争ってくれるだろう。
やっていることはこいつら並みに陰湿だが、これも他の人に被害を出さないためと割り切ることにしよう。