第104話 ブルーオーガ
「それじゃあ今日はダンジョン協会からの依頼で37階層に出現したらしいブルーオーガを討伐しにいくぞ」
"うおっ、マジかよ!?"
"大宮ダンジョンの37階層か! 確かにイレギュラーモンスターが発生中の通知が来ていたな!"
"突然のイレギュラーモンスター討伐案件でワロタw"
"この前の横浜ダンジョンの配信は唐突過ぎたからな。今日はたまたま配信を見られたワイ、勝ち組!"
"いや、こんな朝っぱらから配信を見ている時点で負け組の可能性のほうが高いぞw"
ダンジョン協会からの依頼を受けた次の日、今日は朝から37階層へとやってきた。そして事前にダンジョン協会の百武に話をしていたようにその様子を一般配信している。
37階層へやってくると、転移ゲートの前に『イレギュラーモンスター発生中!』と書かれた看板が置かれていた。デバイスの方でもイレギュラーモンスターが発生していることは通知されているが、念のためにこのような処置がされている。
"そういや、横浜のダンジョン攻略の切り抜き動画を見たけれど、見やすくなっていたな!"
"サムネとかもだいぶ見やすくなってよかったぞ"
"あれ、今回の配信の画質が良くなっている気がする。もしかして配信用のドローン変えた?"
こんな時間だが、配信をライブで見てくれている人は多いようで、早速コメントが流れていく。ダンジョンの中では俺の反射神経は向上しているので、一気に流れるコメントを追うことができる。
コメントの内容は月面騎士さんが編集した動画の話になっている。俺が動画編集をしたわけじゃないけれど、こうやって褒めてくれるのは少し嬉しい。そして、ドローンを変えたことにもう気付いたリスナーの人たちが結構いた。
「早速、コメントありがとうな。今日からドローンを新しいのにしてみたから、見えにくいとかあったら教えてくれ」
まあ、何か言われても俺じゃ設定できない可能性も高いから、できなかったら月面騎士さんにあとで聞いてみるとしよう。
"確かに今までのドローンよりもいい感じだな!"
"画質が全然良くなっているぞ。やっぱり最新のドローンは性能がだいぶ上がっているみたいだ"
リスナーのみんなも新しいドローンによる映像の違いが分かるらしい。
う~ん、そんなにみんな見やすくなるなら、面倒だけれど定期的にドローンを変えるとするか。なんだかんだで、見てくれる人が喜んでくれるのは俺も嬉しいものだ。
「それじゃあ早速、ブルーオーガを探すとするか」
「いたぞ!」
この37階層は草原階層のため、見晴らしがかなり良い。それに目的のブルーオーガ以外のモンスターを避けながら索敵することができるため、思ったよりも早くブルーオーガを発見することができた。
これが洞窟の階層だった場合、それぞれの部屋をつなぐ廊下が狭く、モンスターと遭遇して逃げる際に他の探索者にモンスターを押し付けてしまう通称トレインとなってしまうから面倒なんだよな。
"ここからじゃまだ全然見えないんだが……"
"ドローンの高性能カメラよりもヒゲダルマの視力の方がいい件についてwww"
"アフリカの何とか族よりも視力が上とか、本当に人間かよ!?"
俺の目にはブルーオーガが見えているが、リスナーのみんなにはまだブルーオーガが見えていないようだ。
その名の通り、体長は3メートル近くある二足歩行の大柄な青い肌の鬼が大きな棍棒を持って草原を歩いている。その頭からは2本の角が生え、口元からは鋭い牙が見え隠れしていた。
普通のブルーオーガよりも若干体格が大きく、角の形が違うのはイレギュラーモンスターゆえだろう。珍しく運がいいことに、こちらの方から先に敵を発見することができたようだ。
「……理想を言えば他のモンスターと戦っていたり、食事をしているところで奇襲を仕掛けるのが一番いいんだよな。うまくいけば疲弊している両方のモンスターを倒せるし。だけどさすがにイレギュラーモンスターの付近に他のモンスターはいないか」
"強いくせに考えていることが小物過ぎて草!"
"いやまあ、ものすごく正論なんだけどさあ……"
"物語の主人公なら、正々堂々とモンスターの正面から戦うってばよ!"
「いや、ダンジョンの中でモンスターと正々堂々戦うとか言ってられないぞ。むしろ知能のあるモンスターの方がずる賢い手段を使ってくるからな」
言いたいことは分かるけれど、馬鹿正直にモンスターと真正面から戦って危険を冒すよりも、奇襲や遠距離攻撃で倒せるならそちらの方がよい。まあ、配信者だったらその辺りも気にしたりするかもしれないけれど、俺は命の方が大事だから卑怯だと思われる手段もばんばん使うぞ。
この階層ならまだマシだが、深い階層だとモンスターの方が悪知恵は働いたり、常識じゃ考えられない行動をしてくるモンスターもいるから注意が必要になる。
とはいえ、もちろん俺は他の探索者や配信者に害を与えるようなことまではしないけれどな。
「それじゃあ、背後から近付いて一気に仕留めるとするか」