第10話 衝撃のニュース
「よし、いい感じで熟成されているな。そろそろ一番の食べごろだぞ」
このイレギュラーモンスターであるベヒーモスの事件が起こってから、3日が経過した。2人と別れた後はダンジョン内のとある階層のセーフゾーンにある俺の家へと帰り、ベヒーモスとコカトリスの解体作業を行った。
ダンジョン内に現れるモンスターは外の獲物と同じように血抜きや解体作業を行う。基本的に肉というものは血抜きをしないと肉がまずくなる。血抜きをすることによって、腐敗を遅くし、肉の生臭さを取ることができる。
ベヒーモスもコカトリスも首をスパッと切ってからすぐに収納したので、肉は新鮮な状態だ。このマジックポーチは収納した段階でそのまま時が止まるから本当に便利な道具だよな。
「さて、それじゃあ調理するか」
そしてモンスターの肉は他の肉と同様に血を抜いたあと低温で数日熟成させると、肉の旨みが増す。このベヒーモスの肉は3日間熟成したもので、そろそろ一番の食べごろだ。
「肉の味をシンプルに味わうにはステーキだよな」
いろいろな手の込んだ料理を作るのも好きだが、初めての種類の肉を食べるときにはシンプルなステーキで食べている。
以前に食べたブラックドラゴンの肉と同様に、強火で一気に焼いてからアルミホイルに包んで余熱で中までしっかりと熱を通す。
「よし、完成だ！」
”おお～これが例のベヒーモスの肉か！ めっちゃうまそうじゃん！ @ルートビア”
”う～ん、ドラゴンの肉と比べると色が黒紫とかちょっと微妙だな。とりあえずはよ、実食キボンヌ！ @†通りすがりのキャンパー†”
「確かにルートビアさんの言う通り、見た目は実にうまそうなんだが、レアで焼くと色がちょっと微妙なのはキャンパーさんの言う通りか」
ちなみにこのルートビアさん、以前に2人を助けた時にベヒーモスの痕跡を見つけて、コメントで教えてくれたリスナーさんである。ありがたいことに、あのあと俺の配信にチャンネル登録してくれた。そういった意味でも、2人には感謝だな。
……まあ、当然の如く、2人のチャンネルにも登録したようだが。
「それじゃあ、いざ実食！」
焼きあがったベヒーモスのステーキの一切れをフォークに突き刺し、口元へと運ぶ。
うん、色はともかく、とてもいい匂いだ。ドラゴンの肉と比べると肉のサシが少なく、焼く際の脂は少なかった。筋肉質なモンスターだったし、赤身肉の割合が多いのだろう。
「……うん、うまい！ 嚙み応えがありながらも、とても柔らかくて、噛めば噛むほど肉の旨みが溢れてくる！ 脂の旨みというよりも、肉本来の旨みが十分に伝わってくるな！ 普通のベヒーモスでも十分うまいのにこれはそのさらに一段上をいく味だ！」
”くそう、相変わらずうまそうに食いやがって……昼間っから酒が飲みたくなるじゃねえか！ @ケチャラー”
”ああああ！ 普通のベヒーモスでさえ食ったことがないのに、イレギュラーのベヒーモスとかどんな味がすんだよおおお！ @月面騎士”
”解体だいぶ頑張っていたもんなあ……うっ、あのグロ動画を思い出してしまう…… @ルートビア”
「そうだな、解体はだいぶ頑張ったよ。普通のベヒーモスよりも筋肉質だったからなあ。内臓系はグロいけれど、うまいのも事実なんだよねえ～」
解体作業も慣れたものだったが、コカトリスも2体いたからとにかく量が多かったんだよな。それに新規さんには解体作業の動画は少しきついはずだ。
内臓のほうは普通の肉とは違って、すぐに悪くなってしまうが、マジックポーチのおかげで保存も楽ちんだ。肉よりも先にベヒーモスのハツとかを食べたが、ちっとも生臭くなくてうまかったんだよねえ。
”しかし肉はうまそうだったけれど、やっぱり華がないよなあ。華奈ちゃん、瑠奈ちゃんをぜひもう一度！ @†通りすがりのキャンパー†”
”それなw やっぱりヒゲダルマがひとりで食っている配信よりも、女の子のいた方が全然いいよな！ @月面騎士”
”何で前回助けたお礼にコラボを提案しないかなあ……あの2人のチャンネルに登録したけれど、このむさ苦しい配信にあの2人が映っていたなんて信じられん……俺もリアタイで見たかったぜ！ ＠ケチャラー”
「俺はひっそりと配信しているだけだからいいんだよ」
うん、モンスターの解体作業の配信なんて需要がまったくないことは分かっている。だけど俺はこうしてひとりでのんびりと配信をしつつ、リスナーさんとコメントを交わすくらいが性に合っている。
そういえばあれ以降2人からは何の連絡もない。やはりただの社交辞令だったようだな。
"ちょっ、ヒゲダルマ！ ニュース、ニュース見て！ @ルートビア"
”はああああ！ なんじゃこりゃあ！ @月面騎士”
「んっ、ニュース？」
外で何かあったのか？
俺は普段ダンジョンの外のニュースなんて見ていない。そもそも外が煩わしくてダンジョンに引きこもっているわけだからな。
ダンジョンに関する情報も、俺が知る情報の方が先を進むようになってからは見ていない。
俺は腕輪のデバイスを操作して検索サイトのトップページを開く。その一面の見出しにはこんなことが書かれていた。
『ダンジョンツインズチャンネルの双子姉妹、イレギュラーモンスターに遭遇し、コラボ配信中に虹野虹弥をダンジョン内に置き去りか！？』
