勉強
子供達が勉強するために用意されている広い和室には座卓や座布団が数多く並んでいた。
柊月は箸の持ち方を教える手伝いを割り当てられた。それが終わったら勉強用座卓で算数を教えるようにと伝えられ、これなら大丈夫そうだと柊月は安堵した。
「お箸はこの丸い穴に指を通して、下のお箸は動かさずに」
「こーう?」
「そうそう!上手!」
「この小さい1ってなに?」
「1の桁が繰り上がった時の10のことだよ。忘れずに書いておこうね」
「はーい!」
子供達が素直に取り組んでいるおかげか、柊月は何とか勉強を教える補助役を果たすことが出来た。
「ねえねえ、勉強終わったら公園で遊びたい!」
「俺も!」
「あたしも!」
「いいね、じゃあ終わったらみんなで行こっか」
そろそろ足が痺れそうだし丁度いい、と柊月が心の中で付け加えた時後ろから
「なんで!」
と子供の大音量の声が聞こえた。柊月は慌てて振り返る。
「出来るように練習しようね」
「なんで!?1回やったじゃん!」
「うん、でも何回かやらないと出来ないからね」
「1回やったじゃん、頑張ったのになんで!」
駄々を捏ねる児童に先生は根気強く言って聞かせていた。
その状況に柊月は目を丸くする。依が言っていた癖の強い子とは…。柊月は周りを見渡してみた。
「今日はこれやろうね」
「…」
「分かるかな?」
「…んー」
「ここがわからない?」
「あー…」
そのまま机に突っ伏す。全く喋らない。反応すらしない無気力な児童も居た。
「あああああ!!!!」
また違う座卓からも、大声と共にドタバタと足音が聞こえてきた。
「走っちゃダメだよ。机にも座らないよ」
「やああああああ!!!!!」
とにかく暴れて座ることにすら一苦労する子。
「ねぇ、お水飲みたい。あとトイレ行きたい」
「さっきお水飲んだしトイレにも行ったばかりでしょう?また5分も経ってないよ」
「もっかい飲みたい。もっかい行きたい」
そう言ってソワソワしている子。
「…」
子供達のあまりの様子に柊月は絶句した。
ここで算数等を勉強している子ども達は小学生だ。小学校低学年ならば、真面目に学校の勉強に取り組む児童の方が少ないだろう。
しかし、この状況は何だ。
勉強が出来ないとか分からないとか、もはやそういった次元ではなかった。