まだ濡れている
楽しんで頂けたら幸いです。
寺やその周辺の集落一帯に、次々と何世帯もの人々が住み始めるようになった。
柊月は、ここまで人が増えたのだから家の中が少し窮屈になるかもしれないと一瞬思った。しかし目の前にある果てしない田園、青く連なる山々、そして日毎表情を変える空を見れば、その考えはすぐに萎んでいく。
「水道、少しの間だけど出るようになりましたよ」
海莉が家の人々を呼んだ。
蛇口をひねると、透明な水が勢いよく流れ出る。それは本来なら当たり前の光景のはずだったが、長く井戸水に頼ってきた身には、それだけで「お〜!」と感嘆の声が漏れた。
「無駄遣いしないように、なるべく節水しましょうね」
「はーい!」
子どもたちは元気よく返事をする。
「で、その水で洗った洗濯物が…これですか」
軒先にずらりと干された洗濯物の多さに、柊月と依は思わず目を丸くした。住んでいる人数が増えたのだから、当然洗う衣類などもその分増える。
「これを、全部畳むんだ…」
依が小さく、覇気のない声で呟く。
「いえ、まだ濡れているものもあると思うからそれは後回しにして…。大丈夫、乾いたものだけ畳んでタンスにしまっていきましょう」
海莉が励ますようにそう言って、三人で手分けして進めていく。一旦触って乾いているか確認してから、洗濯物を畳んでいった。
少し時間が経った後のこと。何人かの女性がこちらにやって来た。
「手伝いますよ」
みな、今回の移住でこの地に来た人々である。年齢は30代ほどに見えた。主婦だろうか?柊月はまだ新しい住民の顔と名前を覚えられていなかった。
海莉は先程と同じように、洗濯物の扱いについて説明する。人数が増えたことで作業のスピードはぐんと上がっていった。
そしてほぼ終盤に差しかかった頃、一人の女性が縁側に干してある残りの洗濯物のほうへと向かう。
タオル類を手に取り、こちらに運ぼうとするのを見て、柊月はもう乾いたのかなと思った。
海莉もそれに気づいて後を追う。
「あぁ、もう乾きましたか?」
そう言いながら、一枚タオルを手に取った。しかしその手は止まった。少し首をかしげる。
「…あら、まだ少し湿っていますね。乾いてから畳みたいので、そのまま干しておいてください」
そう海莉が穏やかに伝えた次の瞬間、その女性は驚くべきことを口にした。
「…あの私、大学卒業してるんですけど」
「…え?」
突拍子もない発言に、柊月は思わず声を漏らした。
読んで頂いてありがとうございます!
「急に大学ってなんの話だよ」と突っ込まれた方多いと思います笑
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