自分だって
楽しんで頂けたら幸いです。
一連のやりとりを隣で見ていた柊月は、胸の奥で思いを巡らせる。
突然家に来てここに住まわせてくれだなんて一瞬、少し非常識ではないかと思った。
普通何かしら連絡を入れた後、伺うものではないのか。ただの高校生である柊月にだって、そんな当たり前のことくらいは考えられる。この世界ではもう高校生ではないけれど。
ましてやここは都市とは違う。人の出入りも限られた静かな里だ。いきなり現れて「住まわせてください」と頼むなんて、迷惑だと感じてもおかしくない。
いや、しかし…。
柊月は頭を振って思い直す。
もしかしたら彼らには、事前に連絡を取るという『余裕』すらなかったのかもしれない。
確かに連絡手段それ自体はあるだろう。SNSを見たと言っていた。しかしそこまで考えて判断する余地など、とっくに消え去っていたのでは?
おそらくこれまで多くの時間をかけて悩んで、不安に押し潰されながら過ごしてきたのだろう。もはや精神状態はとっくに擦り切れて、崩れ落ちる寸前だったに違いない。
そう彼らの背景を考えているうちに、非常識だという感情は柊月の中から跡形もなく消え去った。おそらくこれが、彼らに残された最後の手段だったのだ。
一家の掠れた声と震える背中は、柊月の脳裏に今も焼きついたままである。
そして何よりも…。柊月は、かつての自分を静かに思い返していた。
私もそうだったじゃないか。
この世界へ飛ばされた初日。友人の縁があったとはいえ、血の繋がらない他人の家に突然身を寄せたこと。自分だって境家に何の見返りもなく住まわせてもらい、数えきれないほど支えられてきた。
この家族と私は何ら変わりない、と柊月は再認識する。
人に助けられているのは皆同じだ。お互い様だ。
自分も周りに支えられてきたのだから、今度は自分が人を助ける一端になろう。
ねぇ、都市の皆さん。
それでも、あなた方は『お互い様』を許してくれないの?
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