表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界  作者: 柿生透
46/99

沈黙


楽しんで頂けたら幸いです。


4/28(月)加筆修正しました。だいぶ内容が変わりました!よろしくお願いします!



 何人もの僧侶が唱える読経の声が、広い部屋に響き渡る。


 ここら集落一帯の人々が弔いにやってきた。訪問客の人数の多さに柊月は圧倒される。




 そんな中、法円が小中高生を一つの部屋に呼んで集めた。紙を手に持っている。


 「少し聞いて頂けますか?これは住職が皆さん宛に書いた手紙です」


 部屋の中が少しざわつき始める。


 法円は読みますねと言って手紙を広げた。



 『親愛なる皆さんへ



 この度はここ里永家に来て頂いて本当にありがとうございます。


 お若い皆さんとの会話は大変楽しく、励みになるものでした。


 自身の考えとは全く異なる感性に、毎日心打たれていたものです。


 私の人生はもう後残りわずかでしょう。


 もし皆さんがまだここにいる間、私が仏様に身を委ねたら、その時はぜひ私の体や髪に触れてみてください。


 人は心臓の鼓動が止まろうとまだ髪や髭などは少し伸びます。死の境目とは非常にあやふやなのです。


 死も死体も皆さんが思っているほど、怖いものではありません。


 人はいつの間にか生まれ、そして必ず亡くなります。


 生老病死を心に受け入れ、勇気を持ってこの世界を生きていってください。



 空心』



 「以上です」


 法円は手紙を折り話を締め括った。



 シン…と少しその場が静かになるが、生徒の1人が


 「体に触っちゃっていいんですか?」


と質問する。法円は大丈夫ですよと頷いた。





 その後葬儀の準備で周りが忙しくしている中、数人は


 「死体なんて汚いもの触りたくないよねー」


と言っていた。あのナンパと言ってきた女子もいる。


 それを耳にした時、柊月は思わずギロリと声のする方を睨んでしまった。誰も彼も例外なく皆死ぬのに、何言ってんだ。こういう人って自分が死ぬとか考えたことないんだろうな。



 そして自分と違う意見や考えを心の中で咀嚼しないまま、すぐ言葉にして口に出すんだ。





 「妻の蓮です。本日はみなさん、お集まりいただき…」


 蓮が前に立って挨拶している。本人たっての希望で火葬はしないと説明していた。



 その後、生徒達は空心が横たわる部屋に入った。


 「まるで眠っているだけに見えるでしょう」


 法円がそう言うと、数人がコクコク頷いた。


 「手も触ってください。何も怖くありませんよ」


 法円が勧めてきたため、柊月は恐る恐る手を触ってみる。暖かくはないが、冷たくもない。生きている人間と何ら変わらないものだった。


 その後依や、他の生徒たちも手や頭に触れていく。もう少し時間が経つと、爪も伸びたり口がだんだん開いてきたりするんですよと法円が皆に解説し始めた。


 柊月は黙ったまま、空心に触れた手をジッと見つめていた。






 「あの、柊月」


 その日の夜、依は柊月に話しかけてきた。


 「私、最初会った頃『この世界で喋ってはいけない』って言ったじゃない?」


 「ん?あぁ、そうだったね」


 正直なところ柊月はほぼ忘れかけていた。


 「あれって都市だけの話で、ここはそんなことなかったね。ごめんね…」


 「もう、なんで謝るの」


 柊月はため息をつきながらも笑った。依は自分自身のことを慮って言ったのだから謝る必要などない。


 「私のために言ってくれたんだから。…それに」


 ん?と不思議そうな顔をして依は柊月を見た。


 「あながちここでも間違っていないと思う」


 何か伝えるのは言葉だけじゃないってこと。それを教えるために、住職の空心は誰とも喋らない時間を取ってと言ったのではないだろうか。




 柊月と依は夜空を見上げる。まん丸の月が浮かんでいた。2人を見つめ返している。



 月は元の世界と何も変わらない。まるで変わらない。そして『死』も存在している。




 2人とも涙は流していない。不思議と悲しみの感情は無かったのだ。ただ、心の中に少し穴が出来たような気分だった。


 この空白は一体何なのだろう。




 思いは時に言葉にせず、また涙でもない。


 ただ心の中に落ちていくだけ。




 空心の伝えたかったことが分からずとも、ただ考え悩み抜くのだ。


 それがあの人への弔いだろう。






 『沈黙して、無を受け入れてみましょう』






 月越しにそんな声が聞こえてきたような。


 そんな気がした。




読んで頂いてありがとうございます!


『交換授業/里山体験』のエピソードの土台はこれで進めていきます!整合性が取れていない時期が長くなり申し訳ありませんでした!


感想等いつでもお待ちしてます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ