虫
楽しんで頂けたら幸いです。
3/28(金)4/3(木)5(土)加筆修正しました。
そしてその日、柊月は寺の大人達から今日は小学生の子らと一緒に外で遊んであげてほしいと頼まれた。柊月はすぐに了承する。小さい子供の相手をする役割の中には依もいたからだ。
他にも数人の中高生が遊び相手として呼ばれていた。しかし女子の何人かは、
「うわー絶対服汚れるじゃん」
と眉を顰めて呟いていた。
朝食が終わった後、小学生らは一目散に野山に駆けて行く。慌てて柊月と依はその後を追って着いていき、子供達の様子を後ろから観察した。
ワーっと森の中をかけっこする子たち。虫を見つけては捕まえる子もいれば、川で魚を探す子もいる。花を見たり土や砂でお城か何かつくろうとしている子達もいた。
「見て見て!」
いつの間にか泥団子を作っていた子もいて、2人に得意げに見せてくる。
「綺麗なまん丸になってるね」
「上手だね」
柊月達は優しく子供達を褒めた。
遊ばせる前、周りの大人達は2人に3つの決まり事を伝えた。
1.危ない目に遭わないよう見張っておくこと。
2.子供が何かしているときには邪魔しないこと。子供の方から話しかけたらその時には返事をして褒めること。
3.虫を見た時嫌がる反応をしないでほしい。
これらを朝食時に聞かされた。
もっとも子供達の様子を見張る役割は大人も交代で行うため、本当に危険な目に遭ったらその大人が真っ先に駆けつけるから2人は知らせてくれるだけでいいと付け加えた。
柊月達は「はい」と返事をしたが、最後の『虫』についての決まりだけよく意図が分からず質問した。
「虫の反応のはどういう意味ですか?」
「周りの大人が虫について嫌な反応すると、子供もそれに釣られて嫌がる子が増えてきちゃうの。なるべくそれを避けたくてね…」
柊月は少し戸惑った。虫は得意ではないからだ。
「『嫌い』とか『気持ち悪い』とか言わなければいいから。捕まえたって持って来たら、『すごいね』って返事すればいいだけ」
ワーワーキャーキャーと叫び声がそこらじゅうから聞こえてくる。
子供達に多少の性格差はあれど、皆楽しそうにはしゃいでいた。おとなしめの性格の子も大声は出さずとも土いじりをしたり、虫や花を長い間ジっと観察していた。
その姿を見て柊月はまだ小さかった頃の自分を思い出した。
柊月は今でこそ虫が得意ではないが、それでも小さい時は平気で虫に触れたのだ。小学校の放課後には公園へ行って、友人が捕まえたと見せびらかしてきた虫を触らせてもらったりしていた。
今では怖くて見ることすら避けるのに。
そう思っていると。
「ねーねー」
柊月が物思いに耽っていたその時、ペタペタ足音を立てながら小学校1年生ほどの男の子が1人話しかけてきた。全身がびしょびしょに濡れている。
「魚どこ?」
柊月の服の裾をグイグイ引っ張り、川の方へ指を指す。一緒に着いてきてほしいということなのだろうか。
依がハンカチでその子の服を軽く拭いたが、あまり意味は無かった。
柊月達はその子に着いていき、川の中を覗き込む。
川は太陽の光を反射してキラキラ光っていた。その子は川の中に手を入れてバシャバシャ水を飛ばしている。それで濡れていたのか。
「魚いないー」
2人も裸足になって川の中へ入る。
どこかなーどこにいるかなーと柊月達は言いながら手探りで探す。
「よお、また会ったな」
「あ…」
後ろから聞き慣れた低い声がした。勇一郎だった。
そういえば川のところ倅…と壮市が言っていたことを思い出す。この近くの人だったのか。
「こんにちは」
依はそう挨拶した。勇一郎も挨拶し返す。
「坊主、魚探してるんか」
「うん」
「ちょっと待ってな」
勇一郎はそう言うと同じように川の中に入り、腕を伸ばして一緒に探し出す。
「柊月、この人と知り合いなの?」
依が柊月にこっそり耳打ちした。
「うん、薪割りした時に会った」
そう話していると、
「よしっ捕まえた!」
と大声が響いた。勇一郎が素手で一匹の魚を捕まえたのだ。
「すごーい!」
男の子は歓声を上げる。釣竿なしで取ったことに柊月達もえぇ!と驚嘆の声が出してしまった。
「ほらよ、おっことさねぇようにな」
そう言って勇一郎は男の子に魚を持たせようとする。
「何の魚?」
「鮎だぜ、運が良いな坊主」
焼いてもらって今夜食いなと勇一郎は言った。
その様子を見ていたのか他の子供達も次々と集まってくる。
「見て見て!クワガタ捕まえた」
そう大声を上げながら1人の男の子が近付いてきた。確かに片手にはクワガタを握っていた。
「俺はカブトムシとカマキリと…」
またまた駆け寄ってくる子供達。男の子の方が多いが、女の子も見せにくる。
「お、おー。捕まえられたんだ、すごいねー」
次々と虫を捕まえて得意げに見せてくる子たちを、柊月は目線を逸らしながら頑張って褒める。クワガタなどはともかく奇妙な形や独特の色を持つ、名前も知らないような虫を直視することはできなかった。
「蛇捕まえたー!」
そう叫びながらこちらに駆け寄る子が現れた。柊月は蛇に触ったことはほとんどない。特別苦手意識はないが、得意とも言えない。
「あー。すごいねー」
若干の恐怖心を抱えながら褒めるが、口調は棒読みである。しかし思う。毒を持っていたらまずいのではないか?一気に不安になった。
しかし途中から様子を見に来たであろう壮市が現れて、その蛇に近づいた。手にとってチラッと一瞥すると、
「こいつはマムシだな。刺激しなきゃ大丈夫だから、そっと返してやんな」
とその男の子に言った。
その後、また数人の中高生らが小学生らと遊んであげてほしいと言われたらしく、家屋から出てきた。
先ほどまで服が汚れると憂いてた中高生女子もいつの間にか笑って体を動かしていた。衣類に付いた汚れなど全く見ていない。表情も柔らかくなっていた。
柊月は思う。元の世界に帰りたい気持ちは変わらない。虫は苦手で触れないままであるし、流行物や洗練されたものに対しても人並みに興味はある。
でも体を動かすのって、汗をかくのって、泥だらけになるのってこんなに気持ちいいんだ。
ここで自分が排除されることはない。存在の意味を求められないままに生きていける。だってここには人間の事情などものともしない、訳の分からない虫がたくさんいるのだから。優しい無意味さに包まれている。
便利で発展した都市と、無意味さが許される農村。
私はどちらも欲しい。
読んで頂いてありがとうございます!
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