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境界  作者: 柿生透
32/99

交換後


楽しんで頂けたら幸いです。


3/24(月)25(火)31(月)4/6(日)、加筆修正しました。



 「今日からお世話になるお寺の里永さんです。みんな、和尚さんに挨拶しましょう。」



 よろしくお願いします、と先生が言って小学校の児童らにも促す。



 「よろしくお願いしまーす!」


 そう張り切って挨拶した児童はやはり全員では無かった。今にも動き出したそうにウズウズしている子、口を開けてボーッとしている子、そもそも先生の話を聞いていない子が大勢居た。それは境家でも見覚えのある光景だった。



 住職家族は優しく微笑んでこちらこそよろしくお願いしますと返し、


 「とりあえず、外で遊んでおいで」


と子供達に言った。



 その言葉を皮切りに元気な児童数名が、待ってましたとばかりに森や林に向かって走り出した。


 先生があっと言う前にバーっと木に登ったり、珍しい虫はいないかと物色したり、川に裸足で入って魚を探し始める。行動が早い。


 そして大人しめの児童らはまだ何があったか分からないような顔をしていた。しかし少し時間が経つとフラフラ歩き出して森や空をボーッと眺めたり、しゃがみ込んで土やら花やらを見ていじりだすようになった。


 そんな小学生達の様子を柊月と依が遠くから見つめていると、響がやって来た。


 「都市へ行ったこっちの子達、元気でやってるみたいだよ」


 手には封筒を持っており、中身は手紙と何枚か写真も添えられていた。子供達数人がゲームに熱中している姿が写っている。


 「小さい子は適応力が高いですね」


 「何人かの男の子がゲームにどハマりしたってさ。こんな面白いものがあったんだって」


 でもね、と響は続ける。


 「ゲームは室内でやるからいいけど、問題は外遊びだよ。車なんて見たことないから、みんな道路のど真ん中で遊んでしまったり」


 「危ない……」


 柊月は呟く。


 「あと勝手に人の空き地に入ってしまったとも聞いた。『私有地』とか意味まだ分からないだろうしね」


 生まれ育った環境が違えば、やはり問題は起きてしまうもの。



 「それと、あと数日しないうちに、都市の中高生達もここに来るみたいだよ。『交換授業』じゃなくて『里山体験』って名前らしい」


 「『交換授業』じゃないんですか?」


 柊月が尋ねる。


 「里の中高生の年齢に当たる子たちは家業とか継ぐためにもう働いてたり、都市に出稼ぎに行ってるんだよ。だから都市の子たちだけこっちに来るんだ」






 その日の就寝時、小学生は男子と女子に分かれて寝間に集まっていた。


 柊月と依もそこへ訪れていた。理由は2つある。1つは子供達が寝るまで添い寝の手伝いをしてほしいと頼まれたからだ。


 もう1つは。



 「ねーねーベッドが無い」


 小学生の1人が柊月の袖を引っ張る。床には敷布団やマットレスなどが人数分置かれていた。おそらく布団というものをよく分かっていないのであろう。


 「どこで寝るの?」


 「布団を敷いて寝るんですよ」


 「布団…?」


 「一緒にやってみましょう」


 住職の娘、海莉(かいり)がそう言って敷布団やらシーツやらを敷いていく。


 「今からお手本を見せるので皆さん見ていて下さいね」


 マットレスを敷きその上に敷布団、シーツを被せたら続いて枕カバーを紐で括っていく。


 一連の動作を見せた後「じゃあ、皆さんもやりましょう」と子供達に向き直った。



 普段ベッドで寝ている彼女らにとってはほとんど初めて見る光景だっただろう。頭の中に疑問符が浮かんでいるような表情の子らがたくさんいた。


 「どうやるの?」


 「分かんない…」


 もう泣きべそをかいている子が現れた。柊月は過去の自分を思い出す。自分だけ出来ずに周りから置いてきぼりにされるのがとても不安で怖かったことを。


 「大丈夫、まずはマットレスを敷きましょう」


 「マットレスって何?どれぇ…」


 涙声で訴える。柊月達は「これだよ。マットレスっていうのは一番下に敷く物だよ」と伝える。


 「次に敷布団を敷きます。これですね」


 待って待ってと言いながら泣きそうになる子がいた。


 柊月も境家に来るまでは布団にほとんど馴染みは無かったのでよく分かる、と思うと同時に恥ずかしくなった。自分も小さい子同様、ほとんど出来ていなかったからだ。


 しかし、そんな自分だからこそ言えることがある。


 柊月はその子に近づき、最大限の優しい声で言った。


 「大丈夫だよ、お姉さんも少し前まで布団の敷き方分からなかったの。でも練習するうちに出来るようになったからね。一緒にやってみよ?」


 本当?と少し目を赤くしながらその子は聞いてきたので、柊月は本当だよと返す。


 「一緒に頑張ろう」


 そう言って柊月は敷布団に手を伸ばしマットレスの位置に合わせるように載せる手助けをした。


 他の分からない子にも手伝いをして、何とか全員分の布団が敷き終わった。




 「よく頑張りましたね。初めて見るものに対して、めげずに取り組んだ皆さんはとても勇気があります。頑張った自分を目一杯褒めてあげましょう!」


 海莉は拍手しながら子供達を褒めた。子供達はやったー出来た!と喜んで、その中の数人はそのまま布団へダイブした。


 あ、と止める間もなく子供達は大声ではしゃぎ出す。


 


 「みんなで一緒に寝るのって修学旅行みたいでなんかワクワクするね!」


 先ほどの暗い表情はどこへやら、1人が興奮した口調でそう言った。



 これから寝かしつけるの、きっと大変だろうなと柊月は苦笑いしながら思った。



お読み頂きありがとうございます!

感想等いただけると大変励みになります!よろしくお願いいたします!


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