異界
柊月は依の半歩後ろについて歩いていた。
「違う世界…?それに喋ってはいけないって…」
困惑しながらも柊月は依に尋ねる。
「ここはもう今まで柊月がいたところ…私たちがいたところとは違う世界ってこと…異界だよ。一見、同じ街で同じ日本に見えるけど」
上手く状況が飲み込めない。
「私も柊月と同じように、ある日突然こっちの世界に来たの」
「…」
「それで…もうあまり喋らない方が良いと思う。ここは言葉に対して何というか…制約みたいなものがあるんだよ」
「制、約…」
「今から私が住んでるところに行こう。きっと柊月のことも受け入れてくれる」
依は着いてきて、と言って柊月を手招きした。
懐かしい友人との再会もそこそこに2人は歩き出した。
一面に広がった灰色の雲は柊月たちを包んでいた。
道なりに沿って2人は歩く。しかしやけに空が大きく見える。マンションなど、背の高い建物が無いからだと気付いた。見かけない空き地もちらほらある。全体的に古めかしい印象があり、タイムスリップしたみたいだと柊月は思った。
歩いている間自分たち以外の他の人達も目にした。
「…」
妙に違和感が残る。何かが違うと思った。
柊月は少し考えて、せかせか早く歩いている人が1人もいないことに気づいた。
歩くスピードが遅い…。というよりは辿り着く目的地が無いような歩き方だった。
フラフラとした足取りで散歩している人。手ぶらで歩いては立ち止まって道端に咲いている花を見ている人。歩くどころか立ち止まって空を仰ぎ見ている人もいる。
ベンチでただボーッと座っている人も居る。そこはバス停では無い。疲れているようにも見えない。暇を持て余しているようだった。
小さい子供や高齢者ならともかく、老若男女問わずそのような状態だった。
仕事に行くために荷物を持って我先にと足早になる人など1人もいなかった。
「柊月、もうすぐだよ」
依が振り返る。柊月も依に顔を向けた。
柊月の表情を見て依も察したのだろう。
ね、という顔を見せた。