再会
「…」
柊月は両腕を下ろし恐る恐る目を開けた。もう警報音は鳴り止み電車はどちらも去っており、風は止んでいる。
フッとため息を吐く。柊月は少し落ち着きを取り戻した。
(…あれ)
柊月はあることに気づいた。やけに視界が薄暗い。空が曇っていた。
さっきまで鮮烈な赤をした夕焼けだったのに、ほんの短時間で急に天気が変わるなんてことあるだろうか。
気味が悪くなって慌てて早足で踏切から出た。
人は通らない。
その時、目の前からこちらに向かって誰か1人歩いてくるのが見えた。背格好からして女性だった。
1人だけとはいえ、ちゃんと人はいるじゃないかと柊月は少し安心した。
だんだんとその女性の顔が見えてくる。
「ん…?」
柊月はその女性の顔になんとなく見覚えがある。
相手も柊月に気付いたのだろう。こっちを見て
「え…」
と声を出した。
その声色や背格好、顔を見て分かった。
「依…?」
その人物は柊月の幼少期の友人であった依だった。
高校はお互い違ったため、最近はほとんど会えてなかった。
偶然の再会に柊月は心躍る。
「ひ、づき…」
反対に依は驚きつつもその顔はこわばっていた。
「依…久しぶり、偶然だね」
会えて嬉しい、と柊月は言う。
依はこわばった顔のまま
「柊月、どうして、いるの…?」
と聞いてきた。
質問の意図が分からず柊月は困惑した。
「どうしてって、ここ通り道だから…」
普段は跨線橋で通っているけど、と柊月は心の中で付け足した。
「なんで…」
依は明らかに動揺していた。何で、どうしてと呟いている。
「どうしたの…?」
「あの…落ち着いて聞いて」
依は意を決したような表情で言った。
「ここは違う世界。もう元にいた世界の言葉を喋ってはダメ」