女性
ふと背後から人の声がしたため、ボーッとしてた柊月は驚いてビクッと体を動かした。
お嬢さんとは自分のことか?周りに自分以外の人はいなかったのだからと柊月は後ろを振り返る。
そこには帽子を目深に被った女性がいて、顔はよく見えない。おそらく20〜30代の女性だろうか。
全身黒い服装で、どことなくその女性には重い雰囲気が漂っていた。正直なところ、海や砂浜にいると少しチグハグな印象を持ってしまう。
「あ、はい、私ですか…?」
柊月は一応返答してみる。相手は
「えぇ」
と返しそのまま続けた。
「お嬢さん、海にいたら危ないわよ」
「え、何かあったんですか…?」
柊月は恐る恐る聞いてみると同時に頭の中で思考を巡らせた。
もしかしてここは遊泳禁止の海だったとか…サメがいるとか、それとも地震でも起きて津波が発生したとか…。
「その何かがあったら危ないでしょう。さっきも、亀は噛み付く種類だってあるのよ」
『何かがあったら』と言ったということは、特に今危険な状況では無いということ?じゃあ別に良いじゃないかと柊月は頭の中でクエスチョンマークを浮かべた。
この女性は亀についても言及した。柊月たちが見た亀自体が噛み付く種類というわけではないのか?可能性を示唆しているのか?
いや待て。そもそも亀が歩いてた時からこの人はずっと私たちを、私を見ていたのか?なんで?と柊月は少し怖くなった。
それでも柊月は相手を刺激しないよう平静を保って、
「あ、そうなんですね。でも亀には近づき過ぎないようにしましたし、特に何も無かったので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
と相手に伝えた。しかし相手の女性は食い下がる。
「自分の身がどうなるか、しっかり考えないと。危険な目に遭ってからでは遅いから」
最初はただ心配してくれているのかと思っていたが、なんなんだこの人と柊月は少し腹が立ってきた。
なんで急に知らない人にこんなこと言われないといけないんだ。やけに押し付けがましい。
小学生ならまだしも大人の一歩手前である柊月は、もうそのように注意されなくてもある程度周りの状況は把握出来る。海に来てから女性から話しかけられるまで、危険な行為など一度もしていない。
「その時になったらどうするか考えます」
柊月はそう返した。




