海
3/5(水)、加筆修正しました。
『都市』を出るまで、2人は用心に用心を重ねて口を開かず無言を貫いた。
会話が出来ないことは残念だが、それよりも周りから怖い顔で睨みつけられる方が嫌だったのだ。
ガタンゴトンと電車の音が鳴り響く。
「柊月、都市から抜けた」
依は2人の沈黙を破った。
「もう普通に話そう」
依は笑顔でそう言って、ある提案をした。
「ねぇよかったら海見に行かない?」
「うわぁ…」
途中駅から降りて程なく歩けばそこには海が横たわっていた。
一面に広がる海に2人は言葉を失う。
先ほどまで柊月の頭の中は全て『都市』で埋まっていた。しかしこうして自然の雄大さを目の前にしているとその割合はだんだん減っていく。
「気持ちいい…」
靴と靴下を脱いで裸足になり足を海水につける。
ひんやりとした感覚は心地良く、ザブーンという波の音も2人の張り詰めていた心をほぐす。
「海は元の世界と変わらないね…」
「ね…あ、あれ海亀じゃない?」
依は遠くを指差す。砂浜で何か動いてるものが見える。
2人はそれに近づいてみると確かに海亀であった。大体1メートルほどの大きさだった。砂浜から海に向かってゆっくり左右の足を動かして進んでいる。
柊月は海亀を直接見たことなどほとんど無く、嬉しさで興奮した。
「わーかわいい!」
「だね!」
ひとしきり遊んだ後、依は
「私この後ご主人様と用があるからもう帰るんだけど、柊月は?」
「私はもう少しここにいたいかな」
「1人で大丈夫?」
電車の乗り方自体は元の世界と変わりなく、まだ明るい時間帯だから問題無いと柊月は答えた。
依は駅へ向かい、柊月は1人砂浜に残っていた。
「…」
柊月はしばらくの間無心になっていた。
波はただ寄せては返すを繰り返す。そこに何も意味など無い。海はこちらに何も答えず、何も返さない。海は柊月に何も関心など無いのだ。
その事実が柊月のこの世界に対する恐怖心を薄めていく。何も考えずボッーとした状態が続いた。
その時背中から女性の声が聞こえた。
「もし、そこのお嬢さん」
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