反応
柊月と依は屋台で買ったアメリカンドッグを食べていた。
「こっちの世界ってやっぱり物騒なんだね。スパイとか言ってたし…」
柊月は小声で囁きながら周りを見渡す。自分たちを見張っているような人物は今のところ見受けられないが…。
元の世界に帰る方法を見つけたい。しかしその前にこちらの世界で無事に過ごせるだろうかと不安に駆られた。
「依がこの世界に初めて来た時もこんな感じだったの?」
「ううん。最初はスパイとか聞いたことなかったし、言葉だって縛られてなかった。でも柊月が来る少し前から、いつのまにか…」
なんでこんなに厳しく、怖くなったのかな…と依の目線は遠くなった。
「さっきの大学生の人達、『農村』とか『田舎』とか言ってたけど、そっちはどんなとこなんだろ。元の世界と変わりないのかな」
「私もほとんど行ったことないから分から…痛」
何事かと柊月は依に目線を向ける。
「あ…すみません」
同じ高校生くらいの女性が依のすぐ隣にいた。その女性の反対側の隣には恐らく連れらしき男性もいた。
依にぶつかったのだ。
ぶつけられた側である依がその女性に謝る。
人も少なくないので端の方で食べていたのだが、邪魔になってしまったか?と柊月は思った。
大丈夫?と柊月は依に声を掛けたが、ぶつかった相手はそのまま通り過ぎ去ろうとする。
「あ、あの、今ぶつかった…」
慌てて柊月はその相手に話しかけるが反応しない。
柊月は戸惑った。
わざとではないだろうが一言謝るのが普通じゃないか。
依も柊月もフランクフルトの棒を持っていたため、ぶつかった際に目に入ってしまう可能性だってあったのだ。
「あ、あの!」
柊月は先ほどより大きい声を出した。
「…えーさっきからなにー」
相手の口調はのんびりしたものだった。面倒そうな表情もしていた。
「どしたん?」
男性が女性に声を掛ける。依の方など見向きもしない。
「えーなんかーナンパ」
「え!?」
女性はそう答えた。
今のどこがナンパだ。なんで私がナンパするんだと柊月は心の中で突っ込んだ。
「いやその人、今この子にぶつかって…」
「柊月、私は大丈夫だから」
依は慌てて止めに入った。
「えー?あー…」
その相手は謝罪どころかまともに返答もせず歩いて行ってしまった。
「えぇ…」
2人は呆気に取られ相手の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
「いやいや!何なの今の」
柊月は憤った。
「なんかすごい人たちだったね」
「棒当たったりしてない?」
「平気。…私のためにありがとう」
依ははにかんだ笑顔でお礼を言った。柊月も少し恥ずかしくなる。
「全然。それに依は私のことずっと気遣ってくれたし…」
お互い様だよ、と柊月は言った。
その時、周りにピリッとした空気が流れた。




