提案
「2人とも、今いいかしら」
その日、柊月と依は澪に呼ばれた。2人は内心ちょうどよかったと思った。
「あなたたち、大学へ見学しに行くのはどう?」
「大学?」
「今いくつかの大学でオープンキャンパスをやってるみたいなの。今後進学するかどうかは置いといて、実際に足を運んでみたら?」
大学、か。柊月は考えを巡らす。
それ自体は悪い話じゃない。興味はある。澪が自分のために提案していることも身に染みて理解している。優しい友人の依も隣にいる。
しかし自分はもうこれからこの世界でやっていくしかないんだ、と非情な現実を受け止めることが柊月には辛かった。自分の知らない世界で自分の将来について考えなくてはならない状況にいることはしんどく、不安に押しつぶされそうだった。
澪の厚意自体には答えたいため、
「では、行ってみようと思います」
と柊月は強引に口角を上げて言った。
「私も行きます」
依も澪の提案に乗った。
依には感謝してもしきれない、と柊月は心の中で思った。
「でも、用心してね。大学は『都市』の中にあるから…」
「喋らない方がいいのですか?」
「単純な受け答えとかはともかく、それ以外は、ね…」
正直なところ、言葉を話さない方がいいと言われる『都市』自体には怖さがある。
しかし何としてでも元の世界へ戻る方法を知りたい。都市に行けば直接的に帰ることは出来なくとも、調べる手段や情報が得られるのではないかと柊月は考えていた。
「ご主人様、何故『都市』の方達は言葉に対して厳しい態度なのでしょうか?」
依は澪に自分たちがかねてから考えていた疑問を切り出した。
「私の予想だけど言葉を取り締まって、自分達が無駄だって考えたものを排除していきたいんでしょうね」
澪は何処となく寂しそうな目をしていた。
「言葉が無くなれば、その存在自体も無くなるのだから」




