訪問
楽しんで頂けたら幸いです。
「どうぞ」
朝陽と暁の母親がお茶と茶菓子をテーブルに並べていく。
「突然お邪魔して申し訳ありません」
こちらつまらないものですが、と響が駅で買ったお土産を差し出す。
柊月たちは、2人の家に上がることになっていた。
『ねぇ、もし良かったら、うちに寄ってかない?』
『え……?』
夕刻遊園地を出たとき、暁はそんな提案をした。
柊月達が答えるより前に、兄である朝陽は唸った。
『んー……』
そのまま目を閉じて腕組みする。
『いきなりお邪魔したらご家族に悪いから……』
響はそう返したが、
『いや俺は良いんだけど、親父が何て言うか……』
と朝陽は歯切れが悪い。
『せっかく家の近くで遊んだんだから、ここまで来たらさっ』
暁は半ば強引に、柊月たちを家へ連れて行った。
「あ……」
柊月達がソファに腰掛けていると、リビングの扉が開く。中年男性が姿を現した。年齢や雰囲気からして、おそらく父親だろう。
「あ、お邪魔しています」
柊月達は慌てて立ち上がり、頭を下げる。その中でも特に響の頭の位置は低かった。
「境と申します」
代表して名を名乗る。
「あ?あぁ……」
父親は柊月らのそんな挨拶に、ぼんやりとしか返さない。
そして暁に顔を向ける。
「暁がウチに呼んだのか」
「俺からも誘ったんだよ」
兄である朝陽が助け舟を出す。
「ごめんなさい……。でも家近いからせっかくと思って」
「それで来たってことか。まぁいいよ」
口では許可しているが、歓迎の色はない。遅い時間でもあるし、やはり迷惑だったか。しかし柊月達も突然のことなので、長く滞在しようとは思ってない。
「君たちはどこ出身?農村?」
「彼がそうです」
響は勇一郎に視線を向ける。勇一郎は軽く会釈した。
「へぇ……」
父親は無遠慮に勇一郎を見た。まるで値踏みするかのようだった。
「ご兄弟とは里山体験で知り合ったんです」
それから、と響は付け加える。
「2人は農村出身ではありませんが、ウチで預かっています」
柊月と依のことも紹介した。
「預かっている……?」
父親は眉をひそめ、少し訝しげな表情を浮かべる。
「家族は?」
「その、少し事情がありまして」
「いないのか?」
不躾な質問だ。それまで丁寧に答えていた響も、少し声が固くなっていく。
「……まあ、そのようなところです」
父親は、信じられないものを見るような表情を浮かべていた。
何なのこの人、と柊月は怒りの感情が湧いてくる。
こっちは訳もわからず、突然こちらの世界に引き込まれたのだ。好きで家族や友人と離れ離れになったわけではない。
何か一言言ってやりたくもなったが、柊月はふと朝陽と暁を見る。
2人は柊月達に対して気まずそうな、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。母親の方も俯いたまま黙っている。
その様子を見て、柊月の怒りの感情は徐々に萎んでいった。
空気が重く、居心地が悪い状態が続く。
響はそれを感じ取ったのか、ソファから静かに立ち上がって言った。
「長居するのも悪いから、僕らはそろそろお暇しようか」
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