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境界  作者: 柿生透
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帰り道


幼い頃は、どこへ行こうとまるで遊園地にいる気分であった。



道に段差や塀があればそれに登って歩き、


電車に乗れば外の景色を見る為に座席に膝立ちになり、


友達と横断歩道を渡る時は白い線しか踏まないように歩くゲームをしていた。


外に出れば周りは目新しいものばかりで、全てが新鮮だった。何をしても楽しかった。




もう今となってはもう思い出せない。


そして二度と、その頃の自分には戻れないのだ。


精神的に大人になったのはいつだろう。




境目はどこだろう。




 灯ともし頃、柊月(ひづき)は高校からの帰り道を歩いていた。


 黄昏時とも言えるが、今日は夕焼けによって建物や家路へ急ぐ街の人々の顔や建物、車や木が赤く照らされている。


 柊月は違う道を通って帰ろうと思った。夕焼けの赤を見て、まだ明るいからとすぐ家に帰る気分ではなかったからかもしれない。


 柊月は毎日家から高校までの登下校で、跨線橋を渡って通っている。


 その跨線橋の下には線路が並び踏切も設置されている。一応これらの踏切を渡って帰ることも出来るが、柊月は普段ほとんど通らなかった。遠回りのルートであり、電車を待たされる時間が長いからだ。


 ただでさえ駅近くにあるため電車が通る本数が多いのに、珍しくそこは2つ連続で踏切が並んでいるのだ。仮に1つ目の踏切を待つことなく渡れたとしても、運悪く2つ目で遮断機が降りて結局待たされるということはザラだった。そのような時、前後どちらも線路に挟まれた場所を柊月は勝手に『陸の孤島』と呼んでいた。


 たまにはいいか、と思いつつ柊月は歩き出す。今は帰りなので時間を気にする必要もない。


 踏切の前に辿り着くと2つどちらも遮断機は上がっていた。警報音も鳴っていない。


 ラッキーと思いながら柊月は1つ目の踏切を渡る。その時前方から警報機の音が聞こえてきた。


 2つ目の遮断機が落ちてきているのが柊月の目に映る。


 結局待たされるのか、と柊月は肩を落とした。そういえば今までこの二つの踏切を待たずに渡れたことなどあっただろうか。


 仕方ない、と柊月はボーッとしながら『陸の孤島』に突っ立っていた。


 カンカンカンカン。


 (…)


 柊月はふと一つの疑問が浮かんだ。


 やけに周りが静かだ。遮断機の警報音しか聞こえない。訝しく思った響は周りを見渡す。そういえば先ほどから人の姿を全く見かけない。自転車や自動車、バイクなども走っていない。


 住宅街に存在するこの踏切を渡る車や歩行者、自転車等は普段から絶えない。利用者数が多いこともここを通りたくない理由の1つであったほどだ。ましてや今は帰宅ラッシュの夕方である。普段なら多くの人や車が行き交うのに。


 まるで街から人々がごっそりいなくなったようだ。


 おかしい。ついさっきまではたくさんの人が歩き、車が通っていたはず。こんなことはありえない。


 徐々に不安の感情が出てきた。なぜだ。もしかして今日何かあったのかと頭の中でグルグル考える。思いつくものは無い。


 心臓の鼓動がだんだんと早くなっていく。


 まるでそれに共鳴するかのようにけたたましく警報音が鳴っていく。耳をつんざく。怖くなってきた。音量がどんどん上がってきている気がする。何が起こっている?


 警報音は後ろからも聞こえてきた。柊月はビクッと驚いた。2つの音の壁に囲まれた。遮断機が落ちていくのが見える。落ちた瞬間に電車が走ってきた。


 それによってビュッと突風が吹く。風と警報音は『陸の孤島』にいる柊月にまとわりついた。


 「っ…!』


 たまらず柊月は両腕でバツ印を作るように顔を庇った。


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