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 二学期になっても、改修工事は終わらなくて、わたし達は桜の木の傍でお(ひる)を食べた。

 桜というのは、手入れが欠かせない木だと思う。弱々しい。すぐに病気になる。そういうイメージがあった。

 イメージどおりなのか、桜の木には頻繁に、どこからか来た庭師らしいひとが、なにかをしていた。枝を調えたり、近場の草をどうにかしたり、液肥らしいものをあげていたり、枝を矯めたり、やることは絶え間なくあるらしい。

 当然だけれど、桜は抵抗しない。わたしはその光景が、なんとなく好きではなかった。




 桜の木の傍、といっても、ベンチはすぐ傍にある訳ではない。桜の根を踏んだり、痛めたりしないように、地面から十㎝くらいの柵が張り巡らせてあって、用務員さんでもそのなかにははいらない。庭師らしいひとが、月水金やってきて、なにかしてるだけだ。

「先輩、進学するんですか」

「んー」

 先輩はわたしが今朝焼いたハンバーグを頬張っている。食べたいと、この間いっていたから、詰めてきた。おいしいといってくれた。

「どうだろうなあ。俺、成績よくないし」

「悪くもないでしょう?」

「兄貴達が行ってるし、俺は行かなくてもいいかなって思ってる」

「じゃあ、就職?」

「かなあ。家にね」

 先輩はちょっと笑った。先輩のお家は仏具屋さんだ。

「ほんというとさ」

「はい」

「母さんのこともあるから、あんまりここから離れたところに行きたくないんだよな」

 わたし達はそのあと、枝を切り払っている庭師を見ながら、他愛ないことを喋った。




「長尾さん」

「はい」

 九月の終わり、お弁当ふたつを持って教室から出ようとしていると、治田先生に呼びとめられた。

 わたしは立ち停まり、先生が近くまでやってくる。

 治田先生は背の高い、現国の先生だ。年齢は、三十過ぎくらい。未婚で、男性教師のなかでは一番、女子に人気がある。

「箭内くんと親しくしているみたいだけれど」

「……はい」

「ああ、叱ろうとはしていないから。校則違反でもないし」

 治田先生はにこっと笑った。「でも、中庭に居ると、桜の手入れにいらした業者さんの邪魔になるかもしれないし、それだけは気を付けてね。ほら、いろんな道具も持ってはいるから、危ないでしょう? なにかあってからでは遅いから」

「はい」

「それと、箭内くんね。彼、進学するつもりがないみたいだけど、長尾さんなにか聴いてないかな」

 なんとなく棘を感じた。先輩の進学の邪魔にならないようにしなさいと、とおまわしにいわれているのかもしれない。

 わたしは頭を振った。どうしてだか、治田先生にいろいろ話すのがいやになったのだ。

 先生は微笑んで頷き、桜を傷めないようにね、といって居なくなった。

 わたしはお弁当を握りしめて、中庭へ急いだ。






 先輩はわたしが桜に執着していることを知っている。わかっている。

 わたしが、執着しているのに、きちんと調べようともしていないことも。

 あれはどういう気持ちだったんだろう。

 多分、こわかったのだ。いろんなことが。


 十月の初め、夕方だった。先輩から電話があったのは。




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