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RESONANCE《レザナンス》  作者: 潜水艦7号
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6年前-2

 小さな島国であるクォンタム王国にとって、国の玄関口は小さな港しかない。

 親衛隊からの通報を受けた沿岸警備隊は、宮殿に近い港へ緊急配備を敷いていた。


「……そこのクルーザーだ。そのクルーザーがドゥハン公の所有物だ。 国外逃亡なら、きっとここへ来る筈だぞ!」

兵士が、少し遠巻きにして待ち構える。

そこへ。


 暗闇の中から、車のヘッドライトが迫ってくる。王族に近い家柄の者だけが所有を許される、車幅の広い高級車だ。


「あれだ! あの車に違いない!」


クルーザー横に車が止まり、中から数人の人間が降りてくるのが見える。

 警備兵がバラバラとその横に飛び出し、周りを囲む。


「物々しいな……どうかしたのか?」

 運転席から降りてきた、大柄な男が足を止めた。


 よく手入れされた口髭に引き締まった目元が高貴な印象を与える。広い肩幅に羽織るキャメルのセミチェスターコートが、海からの風になびく。


「し……あなた達はじっとしているのよ。お父様が守ってくれますからね」

 その背後では、ドゥハンの妻が小さな子供たちの身体を抱えるようにして隠れている。


「ド……ドゥハン公ですな!宮殿から指示が来ております。し、至急お戻りください!」


 ライフルを構える警備兵達の腕が、恐怖でブルブルと震えている。

 僅か10名程度の警備兵と携行する小火器ごときでは、高位のレザナンス遣いであるドゥハン公に勝ち目なぞ無いのを理解しているのだ。しくじれば、命とてない。


「……ふん!大方、デルガネードの差金だろうて。貴様らは『レザナンス遣い』では無いのだろう? ならば、端から私の敵ではない……」


 突きつけられる銃口をものともせず、ドゥハン公がコートの内から小刀を取り出した。16世紀頃の欧州で作られたという、その刃渡りの短いナイフには、綺羅びやかな装飾が施されている。


「まずい! ドゥハン公のレザナンス、『破断の皇帝シャーリング・エンペラー』だ!」


警備兵の顔から血の気が引く。

振り上げられたナイフが、まるで指揮者の振るうタクトのように宙を切り裂く。

次の瞬間。


ビシ……ビシビシ……!

足元の岸壁に長い地割れが縦横に走る。ドゥハン公のレザナンス能力が地面のコンクリートを、まるでバターのように切り裂いたのだ。

地面に出来た切れ目はパックリと口を開き、まるで遊び飽きた積み木のように端から順に崩れていく。


「う、うわぁぁ! 岸壁が崩れる!逃げろ、海に落ちるぞ!」

泡を食って、警備兵が岸壁から離れる。

そして、ドゥハン公とその一行は慌てる兵士を横目に悠々とクルーザーに乗り込んで岸を離れた。


「凄い……。こ……これがドゥハン公の『破断の皇帝シャーリング・エンペラー』か……」


 速度を上げて外海に消えていくクルーザーの舷灯を呆然と見送った後に。我に帰った警備兵の一人が慌てて無線機を取り出す。


「こちら第一沿岸警備隊、ドゥハン公を発見!……されど、消息は不明……」


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