終章
「ヘリオー!セレネラー!キオラナー!どこにいるの?」
仕事から戻った女性が、家の中で声を張り上げて子供達の名を呼ぶが、返事はなく姿も見えない。
家を出て村人に会っても、姿を見ていないとのことだった。
「どこに行ったのかしら?」
「ヘリオなら”恵みの森”だ」
双子の子供を両手に抱えながら、夫が笑いながら答える。
「また?もう、あの子ったら・・・・・!」
「俺の仕事場に来てセレネラ達を預けると、さっさと行ってしまった。多分、しばらく帰って来ないな」
「この子達の面倒を見るように頼んだのに!」
「兄ちゃん、おいてったー!」
「兄ちゃん、走ってたー!」
両親が共働きのため、母親から双子の面倒を頼まれた兄は父親に双子を託し、森へと遊びに行ってしまったらしい。
しかも、これが初めてのことではない。
「よほど気に入ったんだな、あの森が」
「・・・・・・・・・・」
「何だ?」
母親は双子の片割れを優しく夫から奪い取ると一つ溜め息をついた。
母親に抱かれたセレネラは嬉しそうに母の頬っぺたにすり寄る。
「気に入ったのは森かしら?」
苦笑しながら質問を投げかける妻の言いたいことを察し、夫は意地の悪い笑みを見せる。
「森も気に入ったんだろう」
「兄ちゃん、森に行ったの?」
「私達も行くー!!」
兄が足蹴なく通う森へと行ったことのない双子は、両親の腕の中ではしゃぐ。父親はその姿に癒され破顔する。
「そうだな、今度は家族皆で行こう」
「やったー!」
「絶対だよー!」
無邪気に喜ぶ双子に、母親はほんの少しだけ非難の目を夫に向ける。
「・・・・・ヘリオは一人で行きたいと思うけど」
ここにはいない長兄の想いを代弁すると、父親は肩をすくめる。
それぞれ我が子を抱きつつ、もう一人の愛しい我が子を想い、家族は澄みきった空を、そして彼方に存在する”恵みの森”の方角へと視線を注ぐ。
「そうだな。ヘリオにとってあの天使様はおそらく特別なんだろう・・・・・俺達が天使様に祝福された年に生まれた子なのだから・・・・・・・」