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世界最強の魔術師が百合でした  作者: あめふる
5章 帰還、解放
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68話 竜の血


 赤い、ドレス。私は、そのドレスを、今日初めて目にしました。別に、不思議な事ではありません。ただ新しく仕立てたドレスが完成して、それを着ているだけなのかもしれないし、クローゼットの奥深くに眠っていたドレスを、引っ張り出して来て、それを着ているだけという可能性もあります。

 でも、レストさんの指摘に対して、2人の反応は、異様に思えました。ただドレスを褒められただけで、それほどにまで目つきが鋭くなる人を、私は見た事がありません。


「どういう事だ、レスト」


 父上が尋ねると、レストさんはお母様に歩み寄りました。そして、ドレスを摘まんで顔に寄せて、近くで見学をし始めます。


「……魔法が、発動しません。やはり、そうみたいですね?」

「……」


 レストさんが顔を上げて、お母様を睨みます。お母様は、黙ったまま、レストさんを見返すだけで、何も言いませんでした。


「レストさん」

「このドレスは、竜の血を染み込ませた糸で、できた物です」

「竜の血……?」


 私が、レストさんの名を呼ぶと、レストさんは答えてくれました。

 竜と言えば、マルス兄様の持つ剣も、竜の角を利用して作られた物です。この地に住んでいた、暴れん坊の竜を倒し、その上にこの国は建っています。竜とは因縁深いこの国にとって、竜から作られた宝物具は色々あり、それらはこの国の宝物庫に眠っていると、聞いた事があります。


「竜は、魔法を無力化する力を持っています。それは、簡単に言えば、竜の血によって魔力が分散され、バリアのような働きをするからです。その血を利用して作られたこのドレスも、魔力を分散させる作用があるようですね。今、実際に私が魔法を発動させようとしましたが、発動する事ができませんでした」

「な、何を言ってるの……そんな事、ある訳が……」


 ツェリーナ姉様は、分かりやすく狼狽しています。それが本当なら、どうしてお母様が、そんな服を着用しているのかという、疑問が浮かびます。それから、同じく赤いドレスを着ている、ツェリーナ姉様も怪しいです。


「私を最初に殺そうとしたのは、私が魔術師だから。でも、ギレオンが止めに入った上に、ある事に気づいたから、殺す必要がないと、判断したんじゃないですか?」

「あ、あんた、何を言ってるの?最初から、変な事ばっかり言う奴だったけど、ここまで来ると、訳がわかんないわ。もう、聞く価値なんて、ない。そうよね、オーガスト兄様」

「あ?ああ。その通りだ。メリウスの魔女の話など、聞くに値しない」


 本当に、オーガスト兄様は何も考えていないようです。反射的に話を振られて、反射的に同意して返す。オーガスト兄様にとって、私とレストさんは悪であり、だから、どうでもいいんですね。


「この、愚か者が!」

「ひっ!」


 それに対して怒ったのは、父上です。怒鳴り声に驚いたオーガスト兄様が、お母様の後ろに隠れてしまいます。それを見て、父上は更に怒りが増しますが、どうでもよくなったようで、ため息を吐きました。


「続けてくれ、ミストレスト。その、メティアが気づいたと言う、ある事とは、なんだ」

「魔術師の中にも、いくつかの種類があるんです。攻撃が得意。防御が得意。支援が得意。探知が得意。全てが満遍なく使える人もいますが、私はこの中では、攻撃が得意な分類に入ります。攻撃魔法以外にも使える魔法はたくさんありますが、中でも探知はあまり、得意じゃないんです。だから、トラップ魔法や、魔法によって迷宮化された場所の探索には、正直に言えば、向きません」


 つまり、本当はこの地下倉庫に関して、秘密を暴くのが難しいと言う事でしょうか。どうして、そんな大切な事を黙っているんですか、この人は。それじゃあ、自信満々にここに来たのは、どうしてなのかという声が、喉から出かかって止まります。


「じゃあどうして、そんなに自信満々なのですか、貴方は。役立たずなのなら、役立たずらしくしていてください」


 私じゃなくて、オリアナが言ってしまいました。それも、毒舌で。


「えへへ」


 それに対して、レストさんは何故か、頭に手をのせて照れます。


「ま、まぁ仕方ないです。ここまで来てしまっているんですし、とりあえず今は、話の続きを。お母様はどうして、その事に気づいたんですか?」

「こほん。実は、私たちがそのおばさんだと思って対峙していたのが、そのおばさんじゃなかったんです」

「は……え?ど、どう言う事ですか?」


 お母様が、お母様じゃなかった?どういう事なのか分からず、私は頭の上に?を浮かべてしまいます。


「私の家にいた、醜い老婆に化けていた兵士を、覚えていますか?」

「は、はい。もちろんです」


 私を裸にして、その汚れた眼差しで汚そうとしてきた、オーガスト兄様の護衛の剣士の事ですね。本当は男だったんですけど、レストさんがメリウスの魔女のフリをさせて、姿を変えてそこにいました。声まで老婆で、私はそれを見破る事ができずに、言いなりになってしまいそうだったんですよね。


「アレと、同じです。別の誰かを自分の姿に変えさせ、私を殺すように指示を出し、そして自らも姿を変えて、近くで見ていたんだと思います。そして私が、おばさんが変装している事に気づかないのを見て、私が探知魔法が得意ではないと判断。合図を出して、方向転換し、受け入れて、騙しとおす作戦に移った。加えてこのお城に入ってから、どうも魔法を感じる事ができません。もしかしたら、魔法を探知しにくいように、仕掛けがされているのかもしれませんねー。例えば、魔力を無効化する、先程話した竜の血を用いて作られた物が、そこら中に張り巡らされているとか……」


 レストさんの言う通りだとすると、お母様は、レストさんを最初から、試すつもりだった事になります。そして、試した結果、中に通してもいいという結論になったから、受け入れた……。だとすれば、あの変わり身の早さに、納得できます。


「メリウスの魔女様。貴方は確か、ご自分で探知魔法は苦手だ……と、仰いましたね。今のは全て、貴方の推測で話している事になるのではないですか?それに、証拠もなにもないではないですか」

「そうですねー。そう言う事になります。今の貴方は、竜の血のドレスを身に纏っているようなので、変装の魔法を使う事もできません。お化粧直しと言って、本物と入れ替わったんでしょうか。つまり、本物です。となると、私の推測を証明する事は、できません。困りましたー」


 全く、困ったようには聞こえない、呑気な口ぶりです。


「ほ、ほら見なさい。口からでたらめを言って……あんたの言う事は、全部妄想!グレアの言葉と一緒よ!あー、イライラする。もう、いいでしょう、父上?私たちは、十分この二人の意見を聞いた。これ以上は、私の頭がおかしくなっちゃうわ」

「その通りだ!父上!無駄な時間は、ここまでにしよう!」


 オーガスト兄様が、お母様の後ろから、恐る恐る顔を出して、ツェリーナ姉様に同意します。この人は、自分の意見を持っていないんでしょうか。本当に、妹として情けなくなってきますよ。


「おばさんの変装に関しては、何も証明できません。これに関しては、ただ怪しい所があって、そう思っただけなので、推測にすぎませんからね。ですが、この地下倉庫の謎は、解明できますよ。そのために、貴方達二人の着ているドレスが邪魔なので、脱いでください」

「は?」

「聞こえませんでしたか?全裸になって、その肌を露にしてくださいと、言ったんです。はぁはぁ」


 なんやかんや言って、女体は好きなんですね。息を荒くするレストさんは、興奮した様子で、2人に迫ります。息を荒くする、そんなレストさんの様子に、ツェリーナ姉様は若干引いています。

 でも、脱げと言うには、レストさんの言葉が足りません。その言葉と様子は、女性に迫る、暴漢と一緒です。


「父上。お母様と、ツェリーナ姉様に、代わりの服を用意したいのですが……」

「おい」

「はっ」


 父上が命令を出し、兵士が素早く動きます。そして、すぐに用意された代わりの服に着替えた2人と共に、もう一度、地下倉庫に入る所からやり直すことになりました。


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