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世界最強の魔術師が百合でした  作者: あめふる
5章 帰還、解放
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67話 キレイな部屋


 階段を降りた先の地下倉庫は、かつて私が見た通りの光景が広がっています。石の床に、石の壁に、石の天井。それらを照らす、頼りないランプの光。薄暗く、不気味で冷たい空気の流れるそこが、お城の地下に張り巡らされた、巨大な倉庫です。

 ここには、兵士の武器や装備。それから、緊急時のための食糧の備蓄や、お城の資料に、ちょっとしたお宝まで保管されているんです。

 そんな広大な地下には、多くの兵士が見回りをしていて、何も知らされていない彼らは、私たちの姿を見て驚愕の表情を見せます。

 国王である、父上や、オーガスト兄様だけならまだしも、こんな場所に、この国のお姫様が全員集合ですからね。特に、ドレス姿のツェリーナ姉様と、サリア姉様に、お母様は、場違いにも程があります。


「こ、国王様。これは一体、なんの御用で……」

「視察だ。こちらで勝手にやるので、構わんでいい」

「は、はい……」


 父上に言われて、騒ぎになりかけていた兵士たちは、黙り込みました。国王一家を前にして、彼らはだいぶ委縮しているようです。


「グレア。まずは、お前が妖精を見たと言う場所に、今一度案内をしてくれ」

「はい。こちらです」


 父上に言われた私は、父上の前に立ち、皆を誘うように、通路を進んでいきます。前も、父上を案内しましたが、その時その先に待っていたのは、キレイなゼンと、キレイに整頓された、お部屋でした。私の記憶している、汚いゼンと、汚い部屋とは、比べても比べられない、光景だったんですよね。私が、部屋を間違えた訳ではありません。何故か、何もない、キレイな部屋に辿り着いてしまったんです。妖精が隠されていた、部屋の奥の隠し通路までなかったので、恐らくは魔法で惑わされ、別の部屋に辿り着いてしまったのだと、私は仮定しています。父上が、この地下倉庫は、魔法によって迷宮化されていると言っていたので、どういう方法であるにしろ、魔法が関与しているのは間違いないでしょう。

 だとしたら、魔術師であるレストさんがいれば、確実に気づいてくれるはずです。お城の魔術師なんて、比べ物にならないくらいの力を持つレストさんなら、このトリックを見破る事くらい、簡単ですよ。

 そう思っていましたが、しばらくして、倉庫管理室長室と書かれたプレートの掲げられた部屋の前に辿り着いて、ここまでレストさんが声を発する事はありませんでした。


「れ、レストさん。ここまでは、何もありませんでしたか?」

「……はい。何も、感じませんでした。ここが、グレアちゃんが妖精を見たと言う場所ですか?」

「そうです」


 父上は、そんな部屋の扉を、ノックもせずに開け放ちました。その部屋は、やはりキレイに整頓されている部屋でした。酒臭くもなく、たばこ臭くもない……私が、妖精を見た部屋とは、別の部屋のようです。

 ただ、ゼンの姿がそこにはありません。


「本当に、ここで間違いありませんか?道を間違えたり、別の場所だったり、記憶違いという事も含めて、今一度考えてみてください」

「……間違いありません。間違いなく、ここがそうなんです。でも、この部屋は、私が見た物とは違います。私が見たのは、もっと散らかっているお部屋でした。更に、この部屋の主である、ゼンという人間も、私が見た小汚い男ではなく、爽やかな男に変わっていました」


 私の返答を聞き、レストさんは珍しく、真剣に考えこみます。顎に手を当てて、部屋の中を観察し始めました。


「ふ……間違いなくここがそうだと言うのなら、ここに、妖精が閉じ込められていなければ、おかしいでしょう?という事は、ここに妖精がいなかったら、やっぱりグレアが嘘をついていた、という事になるわよね?」

「ツェリーナの言う通りだ!部屋の隅々まで探し、そして見つからなければ、グレアはやはり、父上を騙していた事になる!その場合、オレは貴様を許さない!父上を騙したお前も、お前の所有者であるメリウスの魔女も同罪として、死刑を求める!」


 オーガスト兄様が、張り切ってそう言いました。倉庫の通路に、声が反芻してよく響き渡ります。

 しかし、私の所有者って……確かに、私はレストさんに生贄に捧げられた身ですが、気持ちの悪い事を言わないでほしいです。レストさんが、調子にのるので。


「そうですよー。グレアちゃんは、私の物ですー」


 ほら、調子にのったレストさんが、私にくっついて、抱きしめてきました。胸で顔を挟まれてしまいます。

 大勢の人の前……特に、家族の前でなんて事をしてくるんですか、この人は。


「汚らわしいっ。もしかしてあんたたち、女同士でそういう関係?」


 ツェリーナ姉様が、私を抱くレストさんと、抱かれる私を見て、軽蔑の眼差しを送ってきます。


「そういう関係、というのが何を指すのかは分かりませんが、そうですねー。私はグレアちゃん、大好きです。男性は、あまり好みません。女性全般的に大好きで、特にグレアちゃんや、オリアナちゃんは、私の大好きランキングトップに君臨しています。でも、残念ながら……」


 私、両親の前で、レストさんに告白されてしまいました。私はいたって、ノーマルなんですけどね。

 レストさんは、そこまで言って、私を胸から解放します。解放した所で、私の背中を軽く押して退けて来たので、私はオリアナに正面から、突っ込んでしまい、オリアナはそんな私を受け止めてくれました。


「貴方のような、性格の悪そうな女の子は嫌いです。男以上に、生理的に受け付けません」

「嫌いで、結構。私も、あんたみたいな、生意気で、にこにこ気持ち悪く笑う人間が、嫌い」


 睨み合う、レストさんとツェリーナ姉様。ここに、新たな火種が生まれてしまいました。悲しい事に、争いは争いを呼び、伝染していくんですね。

 私は、抱き着いたオリアナの胸の感触を、顔で確かめながら、悲しみます。オリアナの、なでなでサービスつきです。


「二人とも、よせ。今は、この場に妖精がいるかどうかが、問題だ」


 2人をなだめたのは、父上でした。ツェリーナ姉様は、仕方なく引き下がり、レストさんもおとなしくそれに従います。


「ふん。思いのままに、探すといいわ。グレアは、間違いなくここに妖精がいると言っているんだから、ここにいなきゃおかしい。まぁ実際、一度探しに来て、ここいないのはもう証明されているはずだけど……メリウスの魔女様も、何も感じないと言ってるんだし、無駄足だったんじゃない?ここには、何もない。妖精も、いない」

「そうですねー。ここに、妖精はいないと思います。魔術的な気配も、感じませんでしたし、この部屋にも魔術的な物は感じません」

「そんな……」


 レストさんですら、分からないというのなら、もうお手上げです。


「どうやら、やはりグレアの戯言だったようですね。グレアはやはり、嘘をついていた。フェアリーの粉を所持していたのを見られて、錯乱して嘘をついていた……どうやら、従来通りの見解で、正しいようです。メリウスの魔女様も、その見解で納得してくださいますよね?」


 お母様が、レストさんに同意を求めます。

 ここまで来ると、私は逆に、自分に自信がなくなってしまいます。しかし、道はどう考えても間違っていませんし、間違いなくここで、妖精を見たんです。父上の情報による、魔法によって地下倉庫が迷宮化されているというなら、そこに辿り着けないのも納得できます。でも、魔術師であるレストさんが、魔法の痕跡がないといって、それを否定してしまったら、私は、自分を疑うしかありません。


「いえ。納得は、しません」


 ところが、レストさんはキッパリと、納得しないと答えました。いつもの、にこにこ顔で。


「往生際が、悪いわよ。魔術の気配は感じないと、あんたがさっき、自分でハッキリと言ったんじゃない!つまり、父上が疑った、地下倉庫の魔法による迷宮化なんて、そんなの存在しないのよ!全部、グレアの妄想!虚言!それに騙されてると、早く気づきなさい、このバカ魔術師!」


 イラだった様子のツェリーナ姉様が、レストさんに掴みかかって、怒鳴りつけます。でも、依然として、レストさんはにこにこ顔のままで、ツェリーナ姉様の言葉を、なんとも思っていないようです。


「──確かに、魔術の気配は感じません。でも、気がかりな事が、いくつかあるんです。どうして、そこのおばさんは、最初は私を殺そうとして、途中から受け入れる事にしたんですか?」

「お、おば……」


 レストさんが、おばさんと呼んだのは、お母様の事です。これでも一応、国王の妻として、国政に関わる重要人物なんですよ。そんな呼び方、失礼です。

 でも、顔がニヤけて、油断したら笑ってしまいそうです。


「あんた、失礼にも程が──」

「ツェリーナ、少し黙っていろ。続けろ、ミストレスト」

「っ……!」


 父上に、黙っていろと言われたツェリーナ姉様が、おとなしく引き下がります。掴んだ、レストさんの服からも手を離して、レストさんは乱れた服を、軽く整えました。

 それから、何故かツェリーナ姉様は、私の方を睨みつけてきました。八つ当たりですよ……。


「私はただ、大人げなかったなと、態度を改めたまで……そこに、疑問をお持ちになられるのですか?」


 お母様はそう言いますが、疑問を持ったのは、レストさんだけではありません。私もです。でも、そう言われれば、それまでの話でもあります。


「そうですかー。ところで、その赤いドレス、とてもステキですね」

「……」

「……」


 レストさんの、何気ない褒め言葉。それを口にした瞬間に、お母様と、ツェリーナ姉様の目の色が、変わりました。


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