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6話 ごめんなさい


 フェアリーは、人と形が変わらない、小さな生き物です。人に危害を加えない、おとなしい生き物で、森などの自然が豊富な場所に、多く生息しています。美しく、キレイな見た目から、森の宝石とも例えられたりしています。この個体も、透き通るような青い髪の、キレイな子です。

 そんなフェアリーの胸には、釘が刺さっています。檻の中の木の板と、釘により固定され、動けないようにされている。2枚の透明な羽は、糸でぐるぐる巻きにされ、見ているだけで痛々しい。

 意識はないでよう、フェアリーは起きる気配がない。死んでいるのかとも思うけど、フェアリーは死んだら、形が残ることはない。だからこの子はたぶん、気を失っているだけだ。


「な、何を……いえ、ツェリーナ姉様、まさか……!」

「ゼン」

「……はいよ」


 ゼンが、檻の中からフェアリーを取り出した。フェアリーと繋がっている木の板は、檻を開くと固定が外れる仕組みになっているようで、それごと取り出された。

 取り出したフェアリーを、ゼンが机の上に置いた。そして、傍には先ほど隠れていた通路を開くのに使った、ハンマーが置かれる。


「ゼン。変わって」

「へ?へへ……喜んで」

「ひっ」


 ツェリーナ姉様に代わり、ゼンが私の体を拘束してきます。男の人に、背後から抱き着くような形で拘束されてしまい、私は生娘のような小さな悲鳴をあげてしまいました。だって、わざと体を密着させて、変なところを擦り付けるような動きを見せてくるんですよ。気持ち悪いったらありゃしません。


「可愛い、可愛い、妖精さん。とっても、美味しそう」


 ツェリーナ姉様が、横たわるフェアリーを指先で撫でながら、もう片方の手でハンマーを手にしました。

 そして、次の瞬間でした。ハンマーが、フェアリーの右腕に向かって振り下ろされ、フェアリの腕が潰れました。


「────!」


 その衝撃で目が覚めたのか、フェアリーが目を見開き、暴れだした。目からは、涙が溢れ出ている。だけど、胸に刺さった釘で、身動きはできない。そもそも、体に力が入らないのか、その動きが妙に鈍く見える。

 何かを叫んでいるようだけど、フェアリーの声は、通常人の耳には聞こえない。だけど、何を言っているのかは分かる。とても痛がって、暴れて、助けを求めているのだ。


「痛いのね。可愛そう。でも、痛がる姿がとっても素敵」


 ツェリーナ姉様が、そう言いながら上げたハンマー。そこには、先ほどまでフェアリーの右腕があったはず。でも、もうない。代わりに、輝くような、キレイな粉があった。

 ツェリーナ姉様は、迷うことなくその粉に鼻を近づけると、鼻から吸い込んだ。


「んあああぁぁあああぁぁぁ!きっくぅ!」


 そして、身を震わせ、歓喜の雄たけびをあげた。興奮し、身体を抱きながらビクビクと身体を震わせる様子には、恐怖を覚えます。ただ、私を背後から拘束しているゼンは、楽しそうに笑っていました。

 フェアリーの胴体から四肢のパーツが離れると、それは粉となる。その粉は、人間にとって強い麻薬作用を生み出す。死んだフェアリーでは、ダメだ。生きたフェアリーから作られた粉でないと、効果がない。粉となってしまった四肢は、しばらくすれば再生するので、再利用がきく。そのため、生け捕りにされたフェアリーの運命は、過酷な物となる。

 あまりに残酷すぎて、今はフェアリーに対する残酷行為として、裁かれる行為となっている。でも、こうして裏でやっている人は、たくさんいる。でもまさか、こんなお城の中でやる事ですか。父上やお母様が知ったら、どうなると思っているんですか、この女は。いくらツェリーナ姉様といえど、絶対に怒られますよ。


「ツェリーナ様よう。自分ばっかり楽しんでないで、オレの分も作ってくださいよ」

「んー……仕方ないわねぇ。はい、妖精さん。もう片方の手を、こっちに伸ばして広げてね。ハンマーで砕くから。うん?嫌なの?嫌なの?お願いだから、言う事を聞いて。一生の、お願い。ほら、手伝ってあげるから……あら。力をいれすぎて、折れちゃった。抵抗するから、いけないのよ?もとに戻してあげる。……あら、行き過ぎちゃった。ごめんなさい。あは。次は、反対。もう一回ね。あはは。……飽きた。それじゃあ、行くわよ?」


 あまりにも、残酷で見ていられない。私は、目を閉じて、その光景から逃げた。ツェリーナ姉様は、元々ドSだけど、コレはあんまりだ。たぶん、フェアリーの粉を吸ったことで、理性がぶっ飛んでしまっているんだと思う。

 ……いえ、思いたい、ですね。いくら仲が悪いとはいえ、こんなでも姉ですから、もうちょっとまともな人間であってほしかったんです。


「────!」


 フェアリーの、助けを求める声が、聞こえた気がした。聞こえる訳ないのに、不思議ですね。でも、私に助けを求めるのは、お門違いです。私はお姫様といえど、力は弱く、権力もない。だから、貴方を助けることはできないんです。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 私は、心の中で、謝罪を繰り返した。

 そして、ハンマーが振り落とされ、叩きつけられた音が響いた。恐らく、それは新たな粉を、作り出したに違いない。


「へへ。いい具合で、できましたね。それじゃあ、代わってくださいよ」

「この、潰す感触がたまらないのよねぇ。すぐに、足の方もやっちゃうから、早くしてよ」

「へいへい」


 二人の会話が、遠く聞こえる。代わりに、私の耳に大きく聞こえてくるのは、助けを求めるフェアリーの声だ。何もできない私のせいで、苦しむフェアリー。私は、何もできない。ただ、美しいだけが取り柄の、お姫様。

 だけど。だけど、だ。もし、少しでも彼女を救える可能性があったら、どうしますか?ゼンと、ツェリーナ姉様が、私を拘束する係を交代する瞬間。わずかに、隙が生まれる。そして、フェアリーは目の前にいる。フェアリーを抱え、扉の鍵を開き、通路を走って逃げる。兵士に助けを求めては、ダメだ。あちらには、ツェリーナ姉様がついている。道は、覚えてるから大丈夫。迷うことなく、外へ出れる。


 私は──……


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