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53話 再会


「皆の者、よく聞け!我が妹であるグレアは、フェアリーの粉を製造し、自らも使用していた、重罪人である!あの首輪が、その証拠だ!」

「マルス兄様……!」


 兵士の注目が、私の首元に集まりました。隷属の首輪……犯罪人にしか付けられないような物をつける、私を見る兵士の目が、一瞬にして変わります。


「グレアは、その罪の深さによって、父上からは死刑を宣告されている!そのグレアが、メリウスの魔女を率いて、我らに攻撃を仕掛けて来た!その意味が分かるな!」


 兵士たちが、マルス兄様に呼応して、沸き立ちました。剣を掲げ、指揮を取り戻した彼らは、キレイに整列しなおして、マルス兄様の突撃の合図を待ちます。


「バカな人達ですねー。この地面を作ったのが誰なのか、忘れているんじゃないですか?」


 レストさんが、呆れたように言いました。


「……本当に、そうですね」


 私たちと、マルス兄様との間にできている、クレーター。これ程の物を作る爆発が、もしマルス兄様達に直撃していたら、どうなると思いますか?一瞬にして、半壊。その後に待つのは、全滅です。何故、それを考えないのか、不思議でしょうがないです。

 まぁ、考えられないから、お城から出て突撃をしてきたんでしょうけどね。


「それにしても、困りましたねー。実力で言う事を聞かせる事はできますが、しかしそれでは、兵士たちに大きな損害が出てしまいます。そうなれば、例え撤退はしてくれたとして、私たちを王国が歓迎してくれないでしょう。グレアちゃんの立場も、更にまずい事になってしまうかもしれません。ただでさえ、死刑宣告をされているのに、更にです」

「そうです。私のためを思うのなら、それは止めてください。でも、どうすれば、あのバカが止まってくれるのか……」

「うーん。熱血系を止めるための手なら、あると言えば、あります」

「……奇遇ですね。私も、一つだけ浮かびます」

「じゃあ、せーので、言いましょう。せーの」

「一騎打ち、ですね」

「一騎打ちで、打ち負かす」


 やっぱり、同じ事を考えていましたね。マルス兄様の事ですから、ここはやはり、勝たなければ言う事を聞いてくれないでしょう。そして、こちらから一騎打ちを申し込めば、マルス兄様は当然、受けてくれるに違いありません。バカですから。

 私とレストさんは、同じ事を考えていたことに、笑い合います。


「マルスさーん!ここは、一騎打ちで勝負をして、こちらが勝てば撤退という事でどうでしょうかー!」

「いいだろう、受けて立つ!」


 マルス兄様は、レストさんの一騎打ちの誘いに、二つ返事で了承です。その了承の速さときたら、夜空を流れる流れ星のごとくですよ。


「それじゃあ、ちょこっと、打ち負かせてきますかー」

「……」

「グレアちゃん?」

「レストさん。マルス兄様は、剣の腕だけは確かです。恐らくは、いくらレストさんでも、近接戦に持ち込まれれば、マズイ事になると思います」


 私は、マルス兄様の武の部分だけは、認めています。

 いくらレストさんが凄い魔法を使えるのだとしても、一騎打ちでレストさんは、マルス兄様を殺す訳にはいきません。そこで、手加減をして威力の弱い魔法を使わなければいけないのですが、そんな手加減をして、勝てるような相手とも思えません。オリアナの時のように、上手くはいかないと、確信をもって言えるのです。マルス兄様の剣の腕は、私にそう思わせるくらい、凄い物なんですよ。

 勿論、手加減をしない、全力同士の戦いなら、レストさんの方が上手でしょうけどね。


「心配してくれて、ありがとうございます。でも、私は平気ですよー。見事に、あの男を打ち負かせて、とっとと撤退してもらいましょう。そしたら、妖精を助けるため、グレアちゃんにもお手伝いしてもらいますからね」

「え?あ、はい。それは、勿論手伝います。何ができるか、分かりませんが……」

「あー、でも……どうしましょう。困りました」

「何ですか?」

「えーと……」


 レストさんは、相変わらず何かを掴んでいるような手の方を気にして、言葉を詰まらせます。私は、その行動の意味が分からなくて、首を傾げるばかりです。


「──私が、行きましょう」


 刹那に、聞き覚えのある声が、聞こえました。聞き間違いでは、ありません。その声の主は、そこにいる。


「あ」


 レストさんが、何かを掴んでいた手を、離した瞬間でした。それまで、そこにはいなかった人物が、まるで自らを覆っていた光の繭を、破り捨てるかのようにして、そこに現れました。

 現れたのは、メイド服を翻し、凛とした表情を浮かべた、私の大切なメイドさんです。


「オリアナぁ……!」


 その姿を見て、私は涙を流しました。会いたくないとか言っておいて、かと思えば突然目の前に姿を現し、本当に勝手なメイドです。いい加減、主人として、ここいらで一発、怒ってもいいと思います。その資格が、私にはあるはずです。

 でも、とりあえず今は、そんな事後回しです。私は、オリアナに言わなくてはいけない事があります。


「ごめんなさい、オリアナ!私は、オリアナの気持ちをちゃんと考えず、勝手な事を言って……!」


 私は、オリアナに向かって、頭を下げました。


「何故……謝るのですか?」

「だって、私を守るために言ってくれたのに、私は……私は勝手に、オリアナなら、私の考えに賛同して、どこへだった付いて来てくれると、勘違いしていたんです。だから、オリアナの申し出を突き放し、私は自分の考えを突き通してしまったんです……」

「では、今は、私と一緒に逃げる事を、選んでいただけますか?」

「それは……できません。例え、あの時に戻れるとしても、私は逃げる道を選ぶことは、ないはずです」


 嘘をついてもしょうがないので、私は正直に言いました。オリアナとの逃亡生活も、それはそれで、私としては、全く悪くない物に思えます。でも、ダメなんです。


「──でも、オリアナを失いたくはありません!オリアナは、私にとって大切な、家族のような物です!だから、どこにも行かないでください!意見が合わなかったら、好きなだけ怒ってくれてもいいです。我儘言ったって、いいです。喧嘩をしても、いいです。でも、お願いですから、どこにも行かないで……!」


 私の下を去っていった、オリアナの姿がフラッシュバックしました。あの時の光景が、脳に焼き付いて、離れません。このまま、一生会えなくなるような気さえして、気絶しそうでした。あんな辛い思いは、二度としたくありません。


「……謝るのは、私の方です」

「オリアナ?」


 オリアナは、オリアナに向かって下げた私の頭に、手を乗せてきました。頭を上げようとしましたが、オリアナが押さえているので、あげられません。

 ふと、地面に一粒の水が降ってきました。私は、その水の意味が分かって、そのままおとなしく、頭を下げ続ける事にしました。


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