表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/79

43話 目的地


 馬に乗り込んだ私は、レストさんと別れ、一人で西へと向かいます。方角は、オリアナが残して行ってくれた、魔法具のランタンがあるので、平気です。

 それにしても、レストさんと別れた直後から、涙が止まりません。どうしてでしょう。一人の不安からでしょうかね。とか言って誤魔化そうとしますが、違います。オリアナが私の下から去ってしまった事が、それだけショックだったんです。先ほどまではレストさんが傍にいたので我慢してましたが、一人になった途端に、決壊してしまいました。大洪水です。


「ふえぇ……」


 情けない声を出しながら泣き、前がよく見えなくて危険です。でも、お城を出た時からお世話になっているこの馬は、とても優秀です。きっと、障害物とかそういう物は、勝手に避けてくれますよ。そう高をくくり、私は泣き続けます。

 それでも、袖で涙を拭い、しばらくしてから泣き止みます。オリアナが心配ですが、あちらはレストさんがついているので、きっと大丈夫。私は、私がすべき事を遂行するため、頑張るだけです。


「オリアナの、バカ!ついでに、私のバカ!」


 そんな風に叫びながら、森の中を馬で駆けていく私は、傍から見れば、さぞかし情緒不安定のヤバイ人に見えるでしょうね。でも、叫ばずにはいられません。私のイライラというか、もどかしさは、叫ばないと解消できませんから。どうせ、誰も見てないし、聞いていないんです。だから、思いきり叫びます。


「あああああぁぁぁぁぁぁ!」


 そうしていると、馬が、突然止まりました。私が操っている訳ではありません。突然止まったことにより、その動きを予測していなかった私は、前のめりになってしまいました。


「ど、どうしたんですか?」


 返事がある訳ありませんが、私は馬に尋ねます。

 でもその理由は、聞かずともすぐに分かりました。私の、すぐ目の前。そこに、寝そべっている巨体があります。今の今まで、眠っていたんだろうなと分かるような仰向けの体勢で、そこにいたのは、ハエ型の巨大な魔物……。


「オラグラル……!」

「おぎゃああぁぁぁ!」


 その目は、パッチリと開いています。どうやら、先ほどの私の叫び声のせいで、起きてしまったようですね。

 当然のように、彼はお怒りの様子です。そして今私は、たった一人です。守ってくれる人も、どうしたらいいのか指示してくれる人も、いません。身体が、震えます。

 今更ですが、レストさんから離れたのは、愚策だった気がします。か弱い私が、たった一人でこの森をうろつくなんて、自殺行為でしかありませんでした。こうなる事を全く予測できてなかった、私のミスです。それから、下手に大きな声を出したのも、私のミスです。ミスの連鎖ですね。そろそろ、ボーナスタイムがやってきてもいいんじゃないかと思うくらい、連鎖しています。

 でも、そんなボーナスタイムを期待する前に、やる事があります。一度、逃げきれているんです。今回だって、余裕で逃げ切る事ができるはずです。見ていてください、オリアナ。私一人だって、やってやりますよ。


「へ?」


 そう気合を入れて、馬を発進させようとしますが、オラグラルは突然おとなしくなり、目を閉じて再び眠りについてしまいました。怒るのも面倒なくらい、眠いという事でしょうか。


「はは……」


 どうやら、ボーナスタイムが来たようです。

 私は薄く笑いながら、今のうちにオラグラルの横を通り過ぎて、さっさとその場を立ち去る事にします。気が変わって、襲い掛かってこないか心配でしたが、最後までそれはありませんでした。

 さらにその後、いくつかの魔物と遭遇しましたが、どれも私に襲い掛かってくることはありませんでした。今までが嘘だったかのように、皆おとなしくて、私を敵と認識する者はいません。ここまでくると、ボーナスタイムとか、運から来る物ではない事が、ハッキリとします。でも、理由はなんにせよ、襲ってこないのなら都合が良い事に変わりはありません。

 私はそのまま、目的地へと向かって馬を駆ります。

 必死だったので、どれくらいの時間走ったのかは、全く感覚がありません。でも、しばらくして周囲の雰囲気が変わった気がします。それに気づいた時、魔法の気配を感じました。この辺りは、何かの魔法で囲まれているようです。

 何の魔法かは分かりませんが、でも魔法の気配があるという事は、もしかしたら……。


「わぁ……」


 期待と共に突き進むと、突然森が開けました。開いたその先にあった物は、湖です。そこだけ薄暗かった森ではなく、色とりどりのキレイな花が湖の周りに咲き、光の射す楽園のような姿を呈しています。

 まだ、昼間だったんですね。頭上の太陽を見て、そんな事を思いました。

 頭上から視線を落とすと、一軒の家が見えました。湖畔にポツリと佇むその家は、石の柱で底上げした上に建っています。下は、水没してもいいようになっているようですね。というか、湖に半分突き出ていて、柱が何本か湖に埋まっています。その上に、キレイな木の家が建っていて、そこが居住スペースとなっているようです。屋根には煙突がついていて、暖炉でもあるんでしょうか。冬は、この辺りは寒そうですから、必須ですね。

 そんな、ちょっと小洒落た家が、メリウスの魔女のお家のようです。私はついに、この旅の目的地である場所に、辿り着くことが出来ました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ