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38話 森の主


 次の日、私は目が覚めた瞬間に、勢いよく起き上がりました。周囲は、木々の茂みの間から射す光で、少しは明るくなっています。という事は、どうやら日が昇っているようですね。私は、朝まで爆睡してしまったようです。

 体の上には、布がかけられていて、おかげで風邪をひかずに済みました。掛けてくれたのは、オリアナでしょうか。


「……」


 周囲を見渡しますが、オリアナと、レストさんの姿が見当たりません。眠っていて無防備な私や、馬や、荷物などを残して、不用心すぎやしませんかね。2人揃って、お花でも摘みにいってるんでしょうか。

 それにしても、昨日の事を思い返すだけで、凄く悔しいです。ハッキリと、魔法の才能がない事を言われてしまい、そんな私はオリアナとの約束を守るしかありません。仕方ないですね。才能がないんですから、教わる必要もありませんよ。


「はぁ」


 ため息が、漏れ出しました。

 魔法を覚える事が出来れば、家族を見返したり、国を守る事に貢献できると思ったんですけどね。そんな考えは、早くも散りました。

 何一つ、上手くいかないな。本当に、私は口だけのお姫様で、役にたちませんね。

 悲しくなってきて、ちょっと涙が溢れそうになってきます。

 ところで、2人がいつまで経っても戻って来ませんね。こんな私に愛想をつかして、2人でどこかへ行ってしまったのでしょうか。


「……オリアナ?レストさん?」


 軽く、声を掛けてみます。しかし、返事はありません。私は、立ち上がって、今度は少し大きめに、声を掛けてみましたが、同じように返事はありませんでした。

 私を置いていくにしても、荷物を持って行かないというのは、おかしいです。もしかして、2人の身に何かあったのでしょうか。


「オリアナー!レストさーん!」


 更に大きな声で、私は叫びます。でも、返事はありません。

 何かあったのなら、私が助けないと。私はいてもたってもいられなくなり、オリアナが料理に使っていたお玉を取り出して、それを武器として構えます。それから、周囲の地面を注意深く観察します。どこかに、2人が向かっていった痕跡があるはずです。それを探して──


「……」


 周囲を見渡した私の、視線の先。そこに、獣の姿が目に入りました。白い毛並みの、大きな生き物です。一瞬犬かと思いましたが、それより遥かに大きく、そして纏っている雰囲気が違います。

 茂みの中から、唐突に姿を現したそれは、巨体を軽やかに動かし、私の方へと近づいてきました。目の前までくると、その大きさがハッキリとします。私なんて、一口で食べられてしまいそうな程の口の大きさです。そんな口から飛び出している牙は、人一人分の大きさくらいですから、そんなのが刺さったらひとたまりもありません。

 それにしても、キレイな獣です。毛並みは美しく、乱れもなく、気品高く感じます。その目は赤く、血のように染まっていますが、とてもキレイに輝いていますし、ただの獣ではありません。

 魔物なんでしょうけど、目の前にまで来られても、不思議と恐怖は感じませんでした。


「貴方は……」

「……」


 声を掛けようとすると、白い獣は、私の横を通り過ぎて、静かに立ち去って行ってしまいました。

 私はそれを見送って、姿が見えなくなった直後に腰が抜けて、地面に座り込みます。一体、なんだったんでしょう。とても、不思議な生き物でした。


「あの子は、この森の主。名を、セラと言う」


 ふと気が付くと、私たちの馬を撫でている人物がいました。

 小さなその人物は、年端もいかない女の子です。髪が異様に長く、先ほどの獣のように真っ白。身にまとう服は、きらびやかな刺繍の施された、色鮮やかな物です。見た事のないデザインですが、身体全体をそんな鮮やかな刺繍の施された布に包まれていて、それを何重にか重ねて着こんでいるようですね。

 頭の上には、ちょこんとティアラのような物が乗せられていて、可愛いです。

 可愛いんですけど、こちらも雰囲気が凄いです。異様ですね。そもそも、メリウスの森の中で、普通の幼女と遭遇する訳がありません。敵意は感じませんが、警戒せざるを得ませんよ。


「そう、警戒するでない。我は貴殿に、危害を加えるつもりはない。……ただ、話をしに来ただけだ」

「その前に、貴方のお名前を教えてくれませんか?ちなみに私は、グレア。グレア・モース・キールファクトという者です」


 私は立ち上がり、武器として持っていたおたまを背中に隠して、自己紹介をしました。


「良かろう。我の名は、ハクメロウス」

「ハクメロウス……」


 彼女は、目を閉じたまま、馬を撫でるのをやめて立ち上がりました。

 一体、いつ、どこから姿を現したのかは分かりませんが、そんな状態で、周りが見えているのでしょうか。ゆったりと歩いて、私の方へと向かって歩いてきます。

 目の前で対峙すると、先ほどの白い獣とは逆に、ハクメロウスの小ささが伺えます。私の胸下くらいの身長しかないハクメロウスは、どこからどう見ても、幼女です。


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