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27話 達人の領域


 オリアナの強さは、圧倒的でした。正面からかかってきた相手に対して、本当に一瞬で、目にも止まらぬ速さで圧倒し、武器を弾き飛ばして鎮圧。また、背後から私に対して襲い掛かって来た者がいると、素早くそちらに回り込み、攻撃を受け止めて、峰打ちでやっつけてくれました。


「オリアナぁ!」


 すると、今度はちょっと離れて、私たちに対して、弩を向けてくる襲撃者達。囲まれて同時に撃たれたら、さすがに対応は難しいですよ。


「貴方たち程度の攻撃では、届きません」


 オリアナが、挑発するように言った瞬間でした。一斉に、四方から弓が放たれて、向かってきます。

 もうダメだと思いましたが、それが私とオリアナに刺さる事はありませんでした。矢が刺さったのは、私とオリアナを囲んでいた、襲撃者達です。

 囲んで放って来た襲撃者達ですが、互いの射線上からは、微妙にずれていたはずです。それが何故か、互いに撃ち合う形となり、それぞれの腕や足に、矢が刺さったんです。


「な、何が……?」

「切っ先で、矢の軌道を変えました」


 風が通ったと思ったら、オリアナでしたか。というか一瞬で、そんな繊細な事をしたと言うのですか、このメイドは。

 昔から、ちょっと動きは早くて、運動神経も良いとは思ってましたが、これじゃあもう、剣の達人の領域じゃないですか。


「……」


 それにしても、この襲撃者達。何も喋りません。矢が突き刺さったというのに、叫び声も、呻き声すらもあげないなんて、ちょっとおかしいです。それが、ただの襲撃者ではないことを、物語っています。加えて彼らの動きは、盗賊とか、そういう類の物には見えません。統率があまりにも取れすぎていて、まとまりすぎです。


「こ、この人たち、まさか──」

「しー」


 私が推測を言おうとすると、オリアナが人差し指で私の唇を押さえて、黙るように促してきました。


「私の実力は、コレで分かってもらえたと思います。これ以上まだ続けるというのなら相手になりますが、その場合、もう手加減は致しません」

「!?」


 オリアナは、いつの間にか襲撃者の一人と間合いを詰めていました。そして、オリアナのスピードについていけず、隙だらけのそのお腹に、刀の柄で殴りつけました。胃液を吐きだし、蹲る襲撃者に、オリアナは容赦をしません。その首に刀の刃を当てて、いつでも殺せるように構えます。


「どうか、ご理解していただけませんか。私としても、面倒な事はしたくないのです」


 オリアナがそう脅すと、襲撃者の一人が、指笛を吹きました。とてもよく響く、美しい音色です。その口笛が意味するのは、恐らく援軍の要請……どうやら、まだやる気のようです。


「はぁ……理解して、いただけませんか。では、ここからは私も真剣でお相手しないといけないようですね」


 オリアナの目が、怪しく光ります。私が、今まで見たことのない、オリアナの顔です。その顔に、私は背筋が凍りつくのを感じました。いつもの無感情な表情に、冷たさが増した感じです。加えて、どこまでも深い闇が、その目を覆いつくしています。

 オリアナは、本気で彼らを殺すつもりです。ここからは、先ほどまでの峰打ちではなく、多くの血が流れる事になるでしょう。

 手始めに、オリアナは刀を突き付けている襲撃者に向かい、振り上げた刀を、振り落とそうとします。


「……ダメです、オリアナ!」


 私は、咄嗟にそう叫びました。このまま、オリアナが殺戮を繰り広げたら、オリアナが帰ってこれなくなるような気がしたんです。だから、止めようとしました。

 しかしその声は、大きな大きな爆発音により、かき消される事となりました。爆発音は、洞窟の外からしました。洞窟の中に、生暖かい風が入ってきて、その爆発のすさまじさを物語っています。


「姫様」


 オリアナが、私の下に戻ってきて、私を爆発から庇うように抱き寄せてくれました。

 刀を突き付けていた襲撃者は、無事です。どうやら、オリアナが刀を振り下ろす前に爆発がして、とどまってくれたようです。それに安心して、私は息をつきます。


「な、なんですか、今のは……」

「さぁ。私には、分かりかねます」


 戸惑うのは、私たちだけではありません。襲撃者達も戸惑いを見せています。ここに来て、初めて人らしい振る舞いを見せてくれました。もしかしたら、人形かなんかなんじゃないかと思っていましたが、どうやら違うようで安心です。

 そして、少し待って援軍が来ない事を確認してから、動けない者を担ぎ上げると、飛んで行った武器も回収し、彼らは静かに撤退を始めました。

 それに対して、ホッと胸をなでおろす私とは違い、オリアナは、彼らが立ち去るまで、刀を構えて警戒を怠りません。やがて、彼らの姿が洞窟の外へと消えていくと、ようやく刀を鞘に納めて、乱れたメイド服を直します。それから、手にしていた刀が、いきなり光の粒子となって消えてしまいました。


「はあぁぁ」


 色々と、オリアナに対して聞きたいことがあったり、外でおきた爆発の事も気になります。ですが、私は一連の事が済んだことに安心して、腰が抜けてしまいました。


「……もう、大丈夫ですよ」


 倒れかかった私を、オリアナが支えてくれました。


「ありがとうございます」

「しかし、こういう時のために、剣の稽古をしていたのでしょう?どうして、戦わなかったんですか」


 確かに、私はレックス兄様に剣を教わったりしているので、それなりに剣は使えます。でも、こんな布切れ一枚で、素っ裸同然の格好で、しかも剣も持ってない状態で戦う稽古なんてしていませんし、実戦経験なんて微塵もありません。お城の兵士との、接待決闘なら経験ありますが、アレはもう遊びです。


「そ、それより、オリアナこそ、あの武器の扱いはなんですか。貴方、いったい何者ですか。それと、外の爆発は何ですか、凄まじかったですよ!?」

「ちょっと、落ち着いてください。とりあえず、外の爆発に関しては……」

「はあぁ……また、濡れちゃいました。オリアナちゃん。タオルって、まだありますか?」


 洞窟の外から、ペタペタと足音をさせて姿を現したのは、レストさんでした。私と同じく、布切れを羽織っただけの、裸同然の格好ですが、レストさんの方が体の凹凸が激しいので、凄く刺激的な格好です。オマケに、濡れているので、更にセクシーさが増しています。

 それにしても、どうして眠っていたはずのレストさんが、外から来るんですか。いや、それより、レストさんが洞窟の外から現れたという事は、もしかして……。


「今の爆発は、レストさんが……?」

「はい。外に怪しい方々がいたので、魔法で脅して撤退してもらいました」

「魔法で……」


 ニコやかに言うレストさんですが、私は冷や汗が出てくるのを感じました。だって、いくら魔法と言っても、あんな大規模な魔法は、規格外です。それが本当だとすれば、この人はどう考えても、普通ではありません。


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