24話 心の底から
「ふぅ。これなら、見えませんよね」
私は素っ裸になり、それから布を羽織って、一応体を確認。見えている所がないか、しっかりと確認してから、荷馬車を降りました。
ブーツもびしょ濡れなので脱ぎ捨てているため、石の上に裸足で降りると、ちょっと痛いです。
その痛みを我慢して、オリアナ達がいるはずの方へいくと、そこは明るく、煌々とした光が周囲を照らしていました。
「わぁー、焚火だー」
私はその明かりの発生源を見つけて、飛びつきました。火に手をかざし、雨によって奪われた体温を取り戻そうと、暖を取ります。暖かいし、明るいし、最高です。
馬車を引いてくれる、馬2匹も、そんな焚火の近くに連れてこられて、休んでいます。
「グレアちゃん。その薄い布切れの下は、素っ裸なんですよね。はぁはぁ」
私と同じように、布にくるまったレストさんが、焚火に当たっています。スルーしていたんですが、はぁはぁされたら気になって仕方がありません。
「息を荒くするのは、やめてください。あと、それ以上は近寄らないでください」
「冷たいですねぇ……それで、脱ぎ脱ぎしたお洋服は、どうしました?」
ニコニコ顔で、はぁはぁしながらそう尋ねてくる、レストさん。私に手を差し出して、脱いだ服を要求してくるのは、変質者そのものです。
「ち、違いますよ?お洋服を火の近くに置いて、乾かさないといけません。そういう意味です。他意はありません」
私の引きつった表情に気づいたレストさんが、慌ててそう言うけど、本当かどうか分かりません。ですが、確かにレストさんの言う通りで、服は乾かさないといけません。レストさんの服は、ちゃんと傍に置いて乾かしているようですし、私もそうしないと。
「それなら、問題はありません。持ってきました」
取りに行かないとなーと思っていると、オリアナが姿を見せて、私が荷馬車で脱いで、そのままだった服を抱えて来ました。
さすがは、オリアナ。優秀です。
「ありがとうございます、オリアナ」
「いえいえ。よいしょっと」
オリアナが、その服を焚火の近くに並べてくれるんですが、その様子をレストさんが凝視しています。その目は主に、私の白の下着に向けられていて、それを凝視しているようです。気持ち悪っ。
「あ、あれ、オリアナ。どうして貴方の服は、濡れていないんですか?」
オリアナは、いつものメイド服姿なんですけど、濡れていないんです。先ほどはびしょ濡れだったのに、一瞬で乾いたとは思えません。しかし、着ている服は全く同じ物で、それに違和感を覚えました。
「替えの服に着替えただけですよ。普通に考えれば、分かるでしょう」
相変わらず、一言多いメイドです。どついたろかと思いますが、我慢、我慢。
「替えの服があるなら、私に貸してくださいよ」
「は?嫌ですよ。この服は、私の服です」
さも、当然のように否定する、オリアナ。主人を布切れ一枚にさせておいて、自分はしっかりと、服を着る。この子、本当に私の従者ですか?
「あうー……オリアナちゃんの、布切れ一枚の姿も見たかったのに、残念ですぅ」
「メイドたるもの、いつでも替えのメイド服は、用意しておくものですので」
なんですか、その信念は。ドヤ顔を決めて言うような台詞じゃないですよ。そんな信念は捨てて、主に対する態度を改めてください。
「へっくしょい!」
私はまた、盛大にくしゃみをしました。濡れた服は脱いだとはいえ、やはり冷えますね。
「そうだ、グレアちゃん。一緒の布に、くるまりませんか?人肌同士で温め合ったほうが、暖かいはずです」
「ああ、はいはい。それにしても、よくこんなに早く火をおこせましたね。……というか、よく見たら木で燃えてるんじゃなくて、コレ岩の上で燃えてるだけですよね。燃料は、どうなってるんですか?」
「私の扱いが、どんどん雑になっていきます!」
いや、だって、こっちの方が気になるんですもん。岩が燃える訳ないし、木で燃えてる訳じゃないし、不思議現象すぎです。
その火が、ちょっと揺らぐと、急に元気がなくなってしまいました。
「あ、あれ。火が、消えちゃいますよ」
「レスト様」
オリアナは、私の服を地面に並べながら、レストさんに声を掛けます。
「……どうせ私なんて、雑な扱いで済まされる、ゴミのような存在なんです」
オリアナの呼びかけに、レストさんはいじけて地面を見つめながら、答えました。地面を指でなぞりながら、とても暗い表情です。それに乗じるように、火の元気もどんどんなくなっていってしまいます。
「あ、ああぁ……」
「はい、こちら、姫様のパンツです」
「ほわああぁぁ!」
「何してんですか!?」
オリアナが、レストさんに向かって投げつけた、私のパンツを、レストさんが見事にキャッチ。同時に、炎に勢いが戻って、むしろ先ほどよりも火力アップです。
「な、なんですか、この炎。レストさんの精神状態と連動しているようですが……もしかして、この炎。レストさんが魔法で作った炎なんですか?」
「その通り。レスト様は、魔術師です」
「くんかくんか。ほわぁ。雨で濡れてるけど、グレアちゃんのいい匂い。こりゃたまらんわぁ」
私のパンツを手に、顔に押し付けたり、匂いを嗅いだりしている、この変態が、魔術師?ちょっと、信じられませんね。でも、この炎は実際、レストさんと連動しているようですし、嘘ではなさそうです。
……とりあえず、深く考えるのはやめましょう。レストさんに関しては、深く考えたら負けな気がします。
私は、心の底からレストさんを気持ち悪いと思いつつ、でも炎の暖かさには勝てなくて、レストさんをそのまま放置して、炎に当たることにしました。




