14話 すり減る精神
そんな訳で、今私は重罪人用の牢獄にいれられて、過酷な環境を強いられているんです。そこに訪れたのがサリア姉様で、私をあざ笑いに来たんですね。性格の悪い、サリア姉様らしい事です。
「あははははは!父上に、聞いたわよ。貴方、死刑になるみたいじゃない。バカねー、フェアリーに手を出すなんて、父上が許すはずないじゃない!しかも、ツェリーナ姉様に罪を擦り付けようとしたとか、本当に最悪!貴方、この国がどんな状況にあるのか、分かってるの?分かってないから、そんなバカな事をしたの?それとも、どうせ滅びるから、どうでもいいやっていうアレ?」
「……サリア姉様は、何も知らないんですか?」
「ふふん。知ってるわよ。貴方は、死ぬの。どんな処刑になるのか、今から楽しみで眠れないわ。貴方は、何で死にたい?ギロチン?首吊り?それとも、火あぶり?私は、貴方が苦しむ姿を長く見ていたいから、火あぶりがいいと思う!」
私を指さして笑ってくるサリア姉様ですが、私は不思議と、怒る気持ちが沸き上がって来ません。もう、どうでもよくなったという側面もありますが、それよりも、サリア姉様が、何も知らない様子に、安心してしまいました。
少なくとも、一連の企てに、サリア姉様は関わっていません。私に対して忌々し気な視線を送ってきた、バカのマルス兄様も、たぶん関わっていませんね。となると、やはりツェリーナ姉様と、お母様の2人が、私の敵という事で間違いないだろう。
「……サリア姉様」
「あはははは。え、何?死ぬ前に、私にお願いでもあるの?もしかして、命乞い?悪いけど、私は貴方を助けないわよ」
「お城の南広場、城門の壁を、広場から向かって右に歩いて行った壁の角に、木が生えています。その木の裏の穴に、私はある物を隠しました」
「なに、それ。お宝?」
「……」
私は、黙ります。
サリア姉様を、信用している訳ではありません。ただ、今はチャンスなんです。この事を聞いたのは、サリア姉様だけ。見張りを追い出してくれた今しか、秘密裏に伝えるチャンスがないんです。
「ま、気が向いたら見てあげる。可愛い妹の、遺言だもの。お姉ちゃんが、ちゃんと叶えてあげるからね。気が向いたら」
「くれぐれも、他言無用でお願いします。私が話した場所の事も、見つけた物の事も、全てです。特に、父上には内緒にしてください。父上にだけは、知られる訳にはいかないのです」
「……ぷっ。あはははは!いいわ!私が、貴方の願いを聞き入れて、父上にこの事を伝えてあげる!」
「サリア姉様!?」
「あはははは!私が、貴方の願い事なんて、聞くわけないでしょう。私に話した事を後悔して、死になさい。じゃねー」
立ち去っていくサリア姉様を、私は鉄格子を掴み、手を伸ばしながら、睨みつけます。しかし、サリア姉様にその手が届く訳もなく、サリア姉様は軽く手を振り、立ち去って行ってしまいました。
「サリア姉様あああぁぁぁぁ!」
最後に思いきり叫びますが、扉が閉じられる音だけが聞こえてきて、姿は完全に見えなくなります。
私は、その場に膝をつき、崩れ落ちました。顔を伏せ、悔しさのあまり、顔が思わずニヤけてしまいます。
そこへ、戻ってきた見張りの兵士さん。このニヤけ顔を見られる訳にはいかないので、絶望したフリをして、その体勢でいる事にしました。何があったのかと、戸惑っているようですが、放っておきます。
ここまで上手くいくとは、思いませんでした。さすがは、性格は悪いけど扱いやすいバカなサリア姉様ですが、自分の演技力にもビックリです。これで、フェアリーの居場所が、父上の耳に届くことでしょう。あの人の事だから、今すぐ父上の所にいって、その場所を伝えているはずです。
上手くいけば、父上があの子を見つけてくれて、何かの打開策になるかもしれない。私は、それに淡い期待を抱きながら、この薄汚い場所で待つことにしました。
しかし、それから数日間。私の下に訪れる者は、いませんでした。
劣悪な衛生環境と、少ない食事。なんですか、コレ。味の薄いスープに、パン1個だけって。ダイエット中でも、こんな食事はしません。更には、私の体をやらしい目で見てくる、見張りの兵士。実際手を出される事はありませんが、私の精神は、順調にすり減っていくのを感じます。
「姫様」
扉の音が開かれ、誰かが訪れたのは、分かっていました。ただ、私にはもう、顔をあげて確認する気力もなかったので、狭い牢獄の中で、膝を抱えてうずくまっていた時でした。
聞き覚えのある、感情のない声に、私はゆっくりと顔をあげます。
「……オリアナ」
そこにいたのは、オカッパ頭の、私のメイドでした。その姿を見た時、何故か涙を流しそうになってしまい、私は慌てて目を拭います。
その、懐かしい、感情のない顔。ちょっと腹のたつ所もあるメイドですが、今の私にとって、彼女以上に愛おしく感じる人物は、この世に存在しません。
「一体、何をしているんですか、貴方は……。フェアリーの粉を使用するなんて、どうかしています。貴方は、この国の恥です。こんな方に仕えていたなんて、私も恥ずかしいです」
「え……?」
突然の、信頼していた人物からの罵倒に、私は頭の中が真っ白になりました。