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エピソード1

「ねぇねぇ、このペンダント、星かハート、どっちがいいかなぁ? 」

クラスメイトの遠山サツキが話しかけてくる。わたし、藍川ミチルは放課後、サツキの買い物に付き合っていた。

「わたしは星の方が好きだけど……ハートも可愛いんじゃない? サツキに似合うし。」

適当に答える。この場合、“テキトー”と書いた方が正しいかもしれない。

「そうかなぁ? じゃあハートにしようかな。」

「そうしなよ。私服にも制服にも合わせやすそうだよ。」

早く決めるよう、使いみちを色々提案してみる。

「やっぱり! 今わたしも、それ思ったんだ! 」


 わたしは急いでいた。理由はただひとつ。

『まだ? 』

母からの催促メールだ。

いつもわたしはこの飾り気のないールに、少し考え、向こうが話の内容をそらすよう仕向ける言い訳と絵文字でメールを飾り、返事をする。

すぐ返って来る返事に、

『急いで』

の文字がなければ、それはもうわたしの勝ちに等しい。ちょっと遅く帰っても、迎えの車に乗った瞬間、

「ねぇねぇ聞いてよ。担任がさ……」

と母の興味をそそる話を始めたら、そこでわたしは勝者となる。なぜなら母は大の噂好きなのだ。


 そんなことを考えてるいるうちに、サツキは支払いを終え、楽しそうにしながら帰ってきた。

「待たせてごめん。でも、ほんと買えてよかった! ずっと悩んでたんだよねぇ。ミチルのおかげ! 」

ニコッとサツキが笑った。

「いえいえ。でもサツキが買うの見たら、わたしもなんか欲しくなったよ。」

わたしはいつものように、こう答えた。無い物ねだりはわたしの悪いクセだ。

「他も見てく? 」

サツキが気を遣って言ってくれたが、これ以上は母に何も言われたくないのと、少し家に帰りたい気持ちで、わたしは断った。



 サツキと別れ、急いで電車に乗り、迎えの車で自宅についた。

我が家は普通の一軒家で、父、母、姉、わたしの4人家族である。さらにわたしは、成績も見た目も性格も、みんなと特に違いはない。わたしは、ほんと“普通”の女子高生なのだ。


 夕食をとり、ちょっとゴロゴロしていたら、ふと、サツキが買ったハートのペンダントが気になった。

ほんのりしたピンクに、ゴールドのチェーン。ハートのモチーフの中に、ラインストーンのようなものが入っている物だった。かわいかったなぁ。

思い出しているうちに、今日行った店が、やけに頭から離れない。

アクセサリーショップというより、雑貨屋という方が似合う店内。エスニックな雰囲気だと思って見ると、売っているものは様々だったり。


 すっきりしないまま時は経ち、わたしは結局、ペンダントが欲しいというのを理由にして、明日、もう一度あの店に行くことにした。



 わたしは放課後、急いであの店に向かった。まったく迷わず、何かに引っ張られるかのように、店の玄関まで来ていた。意識して見ると、その玄関は正面ではないような、また別にもっとすごい玄関があるような気がした。

ドアノブに手をかけ、クルッと回す。店内は昨日のままだった(当たり前だが)。

しかし、何か違った。わたしを包む空気が違うような……

「ここは昨日と変わらないわよ。変わったのはあなたの方。」

店の奥から声が聞こえた。その声と共に女性が現れた。綺麗なウェーブの長い髪、澄んだ翡翠色の瞳、透き通るような肌……海外映画に出てきそうな、とても綺麗な人だった。


「いきなり変なこと言って、ごめんなさいね。でも事実なのよ。」

「あの……訳が分からないんですけど。」

いきなり言われて理解出来るはずがない。さらに彼女とは初対面だ。

「あら、今日はペンダントを見に来たの? 」

読まれてしまったようだった。

「あの……なぜそれを? 」

「昨日、また来るだろうなーと思ったから。」

驚いた。彼女は何か、人とは違う能力でもあるような気がした。

「別に普通よ。ちょっとだけ不思議なだけ。」



 そのあと、いろいろ話を聞いているうちに、彼女には非人間的な能力があるらしい。しかし、そんなこと言われても、簡単に信じられるわけがない。

「で、結局その能力というのは……? 」

「だから、一言ではまとめられないのよ。」

「えー! お姉さん、ズルい。」

「お姉さんじゃないわ。わたしは“ルミナ”。よろしくね。」

「はぁ。わたしは……」

「知ってる。ミチルちゃん。」

“ルミナ”さんのその笑顔は、星のような、月のような、暗闇で輝く光を感じさせた。


「でも、なんで今、わたしはルミナさんとこんなにも話してるんだろう。」

「今気付いたの? 余程ミチルちゃんは、ここが気に入ってくれたのね。」

「は、はい。確かにここ、気に入りました。雰囲気とか……」

ルミナさんが、急にわたしをじっと見て、

「やっぱり! 絶対そう言ってくれると思った! だからわたしもあなたに話したの。」

わたしの頭上に、疑問符が浮かんだ。

「だから、あなたがここに合うから話したの。」

「ここに合う? ……って、見た目とかがってことですか? 」

ルミナさんは笑った。

「違うよー! あなたには、“力”を持つ、素質がある。」

またまた疑問符が浮かぶ。

力? 素質? 

何が言いたいのか、理解できない。

「何のことだか……」

「いずれ分かるわ。そうだ! もしよかったら、ここでバイトしない? 」

「バイトですか!? 」

「うん。無理なことはさせないわ。ちょっと手伝って貰うだけ。」

「やりたいんですけど……」

母のことを思い出す。あの母がバイトなど、許すわけがない。

「大丈夫、安心して。」

「え? 」

「“噂好き”のお母様は、どうにかなるから。」

ルミナさんには、すべてお見通しだった。


 わたしは、電車に乗って、自宅までは歩き、夕方ごろ帰宅した。

今日1番の目的であったペンダントは、ルミナさんのセンスのいいアドバイスのもと、可愛いらしいのを見つけられた。さらに無料で! 

『わたしからのプレゼント。これからもよろしくね。』

という意味合いらしい。その場でそれをつけてみた。

ルミナさんの力なのか、わたしに何かあるのかは分からないが、そのペンダントは元からわたしがつけていた物かのように、しっくり来た。

『あなたのことが、気に入ったのかもね。』

そうルミナさんは言っていた。わたしもこのペンダントは、かなり気に入った。



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