私は会社を辞めたいのです
告白します。私は、会社を辞めたいのです。
そう、辞めたくて辞めたくて仕方ありません。
私は、仕事のことは嫌いではありません。働くことも嫌いではありません。
しかし心の奥底から沸き上がるのは、今の会社で働くのは嫌だという感情です。
私は大企業に勤めています。
他人に仕事を辞めたいと相談すると、勿体ないよと引き留められます。
年功序列に守られたこの会社に居座るだけで、将来はそこそこのお給料と肩書がもらえるようになるでしょう。
しかし私は会社を辞めたいのです。
私にとって勤めている会社は、職と社風がむいていません。
いいえ、きっと私はこの会社に勤めたくなかったのです。
大きな企業という無意味な理由のみで選んでしまいました。
他にも選択肢があったのです。人生は数多の道が広がっていました。
私は、なりたかった何者に成れたにもかからわず、自ら可能性を閉じてしまったのです。
私はよく考えずに人生を過ごし、世間の常識というものに囚われていました。
私の両親も、大きな企業で仕事をすることこそが私の幸せだと信じていました。
そして今の会社に勤めるに至ります。
少し働いた後、私は私の可能性をよく考えずに捨て去ったことに気付きました。
だから私は努力をしました。
会社を好きになる努力、仕事ができるようになる努力だってそうです。
人生を楽しむ努力もしました。一生懸命生きました。
人生の間違えを認めたくなかったのです。
私はその努力は徒労に終わったと思います。
私は私の成果を認められませんでした。私の心の奥底から湧き出る後悔と嫌悪の気持ちは止まることはありませんでした。私は、自分の仕事に誇りを持てませんでした。他人に会社の名前を言うのがたまらなく恥ずかしいのです。私は私の仕事を人に言ったことはありません。
夜になると、私はいつも後悔しました。
私は、私の人生を、私で選び取らなかったことに後悔をしているのです。
日に日に辞めたいという思いが強くなります。
それでも未だに勤め続けています。
それには理由があります。
私はもっと早く会社を辞めるべきだったのです。
しかしこの会社に長く居続けてしまいました。
私は、辞められない努力を積み上げてしまったのです。
私をとても可愛がってくれた上司を考えると後ろ髪を惹かれます。
社内でのキャリアも出来上がってしまいました。
それでも私の心は会社を辞めたいと思っています。
しかし、辞められないのです。
私は、会社を辞めようと何度も挑戦してみました。しかし辞めることはできませんでした。
他の会社に行ったって、大きく変わるわけではありません。辛いこと、楽しいことは同じようにおきるでしょう。お給料は下がるかもしれません、もしかしたら上がるかもしれません。
辞めた結果、私の人生が良くなるか悪くなるかはわかりません。
しかし良くも悪くも、新しい人生を始めることができます。
貯蓄だってあります。数年は仕事をせずに暮らすこともできます。
そうです、私はいつでも会社を辞めることができるのです。
しかし、私は今の会社に勤め続けています。
仕事を辞めた時のことも考えます。きっと実家に帰って、一年間程ゆっくりすることでしょう。運動もして、勉強もして、親孝行もできます。近頃足が悪い母親の代わりに買い物に行って休ませてあげることもできます。疲れたと言っている父の背中をさすってあげることができます。
きっと、良い一年を手に入れることができます。新たに就職しても、それなりに生きていけるでしょう。色々な生き方があることも知っています。私はそれに憧れています。
それこそ小説家になってもいいかもしれません。
辞めたい理由はいくらでも上げることができます。
それでも辞められないのは、私に勇気がないからです。
私は会社を辞めたいのです、しかしそれを実行に移すことができません。
それはまるで乞食のように、今の会社と立場に縋っているのです。
私は、新しい未来を始めようとしていないのです。
今日も私の心には、仕事を辞めたいという気持ちでいっぱいです。
理性が嘯くのです、今の人生でいいじゃないかと。そして心は叫んでいるのです、汚泥を吐きながら。
私は人生を悔いています。
しかし手にもっている成果を手放すことができません。新しい人生にはそれを持っていけないのです。
贅沢な悩みかもしれません。
それでもどうか、私の思いを理解してください。
今にも私は、自分の理知と感情の矛盾に殺されてしまいそうです。
この作品はフィクションです。